
クラウドコストの「なぜ?」を解消!攻めの FinOps で実現する事業成長とコスト最適化
こんにちは!クラウドエースのエモーショナルエバンジェリスト、ラリオスです。
クラウドの活用がビジネスに不可欠となる一方、「請求額を見て驚いた」「どの部署がどれくらいコストを使っているのかわからない」といった課題に直面している企業は少なくありません。このような悩みを解決する鍵として、いま注目されているのが「FinOps(フィンオプス)」です。
FinOps は、単なるコスト削減(守り)の手法ではありません。技術、財務、ビジネスの各チームが連携し、データに基づいてクラウド投資のビジネス価値を最大化するため(攻め)の、組織的な文化でありフレームワークです。
このコラムでは、FinOps の基本的な考え方から、Google Cloud が提唱する実践的なアプローチ、さらには明日から試せる具体的なコスト最適化のヒントまで、経営層からエンジニアのみなさんまで役立つ情報をわかりやすく解説します。
FinOps とは? | 単なるコスト削減ではない、クラウド活用の新しい羅針盤
FinOps と聞くと、単に「Finance(財務)」と「DevOps(開発・運用)」を組み合わせた言葉で、クラウド費用を削減するための手法だと思われるかもしれません。しかし、それは FinOps の一面に過ぎません。
Google Cloud では、FinOps を「技術、財務、ビジネスを一体化し、クラウド トランスフォーメーションを通じて財務アカウンタビリティならびにビジネス価値の実現を促進する運用フレームワークおよび文化的変革」と定義しています。
もっと簡単に言うと、エンジニア、財務担当者、そして事業責任者が同じ目標に向かって連携し、クラウドという強力なツールを「どうすれば最もビジネスに貢献できるように賢く使えるか」を考え、実践していくための文化であり、仕組みのことです。
従来のオンプレミス環境では、サーバーなどの設備は一度購入すれば数年間は大きなコスト変動がありませんでした。しかし、クラウド環境は非常に動的です。ボタン一つでリソースを増やしたり減らしたりできる柔軟性がある反面、利用状況が把握しきれず、コストが想定外に膨らんでしまうリスクもつねに存在します。
FinOps が目指すのは、このような課題を解決し、クラウド投資の効果を最大化することです。具体的には、以下のような状態を目指します。
- 費用の可視性の向上
誰が、いつ、何に、どれくらいのクラウド費用を使っているかを正確に把握できる状態。 - アカウンタビリティの強化
各チームが自らのクラウド利用に責任をもち、コストを意識したうえで開発や運用を行える文化の醸成。 - ビジネス価値の実現を加速
コストとビジネス上の成果をデータで結びつけ、より少ない投資で大きな価値を生み出すための、的確な意思決定を迅速に行える状態。
つまり FinOps は、単にコストを削る「守り」の発想ではなく、データに基づいて賢い投資判断を下し、イノベーションを加速させる「攻め」の財務戦略です。
成功へのロードマップ | Google Cloud FinOps フレームワークの「5つの柱」
FinOps を組織に導入し、クラウド活用の文化を変えていくことは、いわば一つの旅のようなものです。そして、その旅路に迷わないために、Google Cloud は信頼できる地図として「Cloud FinOps フレームワーク」を提供しています。
このフレームワークは、FinOps を成功に導くための 5 つの重要な柱で構成されています。これらはそれぞれ独立しているのではなく、相互に連携することで大きな効果を発揮します。一つずつ見ていきましょう。
1. アカウンタビリティとイネーブルメント | 文化を創る
これは FinOps の土台となる柱です。どんなに優れたツールや戦略があっても、組織に「自分たちのこと」としてコストを管理する文化がなければ、うまくいきません。この柱が目指すのは、経営層から現場のエンジニアまで、全員がクラウドコストに対する当事者意識(アカウンタビリティ)をもち、コスト最適化に積極的に取り組めるように支援(イネーブルメント)する体制を築くことです。たとえば、FinOps を推進する専門チームを組織したり、クラウド利用に関する社内ルール(ガバナンス)を定めたりすることが含まれます。
2. 測定と実現 | 価値を測る
次に、クラウドへの投資が、実際にどれくらいのビジネス価値を生んでいるのかを「測定」し、その価値を「実現」するための柱です。そのためには、まず「何をもって成功とするか」の指標、つまり KPI(重要業績評価指標)を定義することが重要です。たとえば、「ユーザー 1 人あたりのクラウド費用」や「売上に対するクラウド費用の比率」といった指標を設けることで、コストとビジネスの成果を客観的に評価し、データに基づいた意思決定ができるようになります。
3. 費用の最適化 | 賢く使う
この柱は、多くの人が FinOps と聞いて最初にイメージする部分かもしれません。IT リソースの使用状況を財務的な視点で見える化し、無駄をなくしてクラウド支出を最適化する、具体的なアクションを指します。これには、使われていないリソースを停止したり、ワークロードに合わせてリソースのスペックを適正化(サイズ適正化)したり、より費用対効果の高い料金プランを選択したり、コストを意識したシステム設計(アーキテクチャ)を行うことなどが含まれます。
4. 計画と予測 | 未来を読む
クラウドコストは常に変動するため、データに基づいて将来の支出を「予測」し、現実的な「計画」を立てることが不可欠です。この柱では、過去の利用実績データを分析したり、今後のビジネス展開を考慮したりして、精度の高い予算計画を立てることを目指します。適切なタグ付けによってリソースの費用を正確に配賦することが、予測精度を高めるための基本となります。
5. ツールとアクセラレータ | 活動を加速させる
最後の柱は、これまでの 4 つの活動を効率的に、そして効果的に進めるための「道具」です。Google Cloud には、予算を設定して超過しそうになると通知してくれるアラート機能 や、費用レポートを自動で作成する機能、さらにはタグ付けを自動化する仕組み など、FinOps の実践を強力にサポートするツールが数多く用意されています。これらを活用することで、手作業を減らし、より戦略的な活動に集中できます。
明日からできる!具体的なコスト最適化テクニック
FinOps の全体像が見えてきたところで、この章では 5 つの柱の中から「費用の最適化」に焦点を当て、エンジニアのみなさんが明日からでも検討できる、具体的かつ効果的なコスト最適化テクニックを 3 つご紹介します。
テクニック 1 | リソースの「サイズ適正化」
せっかくならと最高スペックのパソコンを買ったものの、実際にはインターネット閲覧とメールくらいにしか使わず、性能を持て余してしまった…という経験はないでしょうか。クラウドのリソースでも、同じことが起こりがちです。
「サイズ適正化」とは、仮想マシン(VM)などのリソースが、実際のワークロードに対して過剰なスペック(オーバースペック)になっていないかを見直し、最適なサイズに変更することです。必要以上のスペックは、そのまま無駄なコストに直結します。
「でも、最適なサイズなんてどうやって判断すればいいの?」と思われるかもしれません。ご安心ください。Google Cloud には、Active Assist の一部である Recommender という強力な助っ人がいます。この機能は、リソースの使用状況を自動で分析し、「この VM はあまり使われていないので、もっと小さいサイズに変更すれば月々これだけ節約できますよ」といった具体的な提案をしてくれます。まずはこの提案を確認することから始めるだけでも、大きなコスト削減につながる可能性があります。
テクニック 2 | 適切な料金モデルの選択
クラウドの料金は、常に定価で支払う必要はありません。Google Cloud には、利用状況に応じて自動的に適用される割引や、長期利用を約束することでお得になる割引など、賢い料金モデルが用意されています。
- 継続利用割引(SUD)
特別な申し込みをしなくても、対象の VM を 1 ヶ月のうち一定時間以上継続して利用するだけで、自動的に適用される割引です。使えば使うほどお得になる、手軽で嬉しい仕組みです。 - 確約利用割引(CUD)
こちらは、特定のサービスを 1 年または 3 年間、継続して利用することを「確約」する代わりに、オンデマンド料金から大幅な割引を受けられる制度です。たとえば、安定して稼働している本番システムのデータベースなど、長期的な利用が確実なリソースに適用することで、コストを劇的に削減できます。
つねに稼働しているシステムに対してオンデマンド料金を支払い続けるのは、非常にもったいないケースが多いです。自社のシステムの特性に合わせて、これらの割引を積極的に活用しましょう。
テクニック 3 | ワークロードに合わせた CPU アーキテクチャの選択
これは、とくにエンジニアのみなさんに注目していただきたいテクニックです。Google Compute Engine で VM を作成する際、CPU のプラットフォームを選択できることをご存知でしょうか。
おなじみの Intel 製 CPU に加えて、Google Cloud では AMD 製 CPU を搭載したインスタンスファミリーも提供されています。そして、特定のワークロードにおいては、この AMD 製インスタンスを選択することで、非常に高いコストパフォーマンスを実現できる場合があります。
たとえば、AMD EPYC™ プロセッサを搭載した「Tau T2D」インスタンスは、Web サーバーやコンテナ化されたマイクロサービスのように、同一の処理を並行して大量に行う「スケールアウト」型のワークロードで優れた価格性能比を発揮することが知られています。
もちろん、すべてのワークロードで AMD が最適というわけではありません。しかし、「CPU を意識して選択する」という一手間を加えるだけで、パフォーマンスを維持、あるいは向上させながらコストを削減できる可能性があります。ぜひ、自社のワークロードの特性を見極め、最適な CPU アーキテクチャを検討してみてください。
FinOps の壁を乗り越える処方箋 | 「クラウドドクター」の活用
前の章でご紹介した最適化テクニックは、すぐにでも試せる効果的なものですが、みなさんの中には「理論はわかったけれど、これを組織全体で、そして継続的に実践していくのは難しい…」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その感覚は、とても正しいです。FinOps を自社だけで推進しようとすると、多くの場合、いくつかの「壁」に直面します。
- 専門知識の壁
そもそも何から手をつければいいのか、自社の環境に最適な手法は何かを判断するには、クラウドに関する深い知識と最新情報のキャッチアップが不可欠です。 - リソースの壁
日々の開発や運用業務に追われ、コスト管理や最適化の分析にまで手が回らない、という企業は少なくありません。 - 文化の壁
「コストは財務部門、開発はエンジニア」といった部門間のサイロ化が進んでいると、コスト意識を全社的な文化として根付かせるのは非常に困難です。
これらの壁を乗り越え、FinOps の取り組みを加速させるための「処方箋」として、私たちクラウドエースが提供しているのが「クラウドドクター」というサービスです。
「クラウドドクター」は、その名の通り、みなさんのクラウド環境の “ 健康診断 ” を行う専門医のようなサービスです。Google Cloud のプロフェッショナルであるクラウドエースのエンジニアが、客観的な視点でみなさんの現在の Google Cloud 環境を診断します。
具体的には、コスト、セキュリティ、パフォーマンス、信頼性といった複数の観点から現状を徹底的に分析し、「どこに問題があるのか」「どうすれば改善できるのか」をまとめた改善提案を含む診断レポートをご提供します。
この「クラウドドクター」は、FinOps を実践するうえで強力な武器になります。
- 自社では気づきにくいコストの無駄やセキュリティリスクを発見できます。
- 最新のベストプラクティスに基づいた、すぐに実践できる改善策を知ることができます。
- 専門家が分析を行うため、社内のリソースを本来の業務に集中させることができます。
- 客観的な診断レポートは、部門を横断して課題を共有し、コスト意識を高めるための共通言語となり、文化醸成の第一歩となります。
FinOps の旅をどこから始めるべきか迷っている、あるいは既に取り組んでいる活動をさらに加速させたい。そのような場合は、一度専門家による「健康診断」を受けてみることが、最も確実で効果的な一歩になるかもしれません。
まとめ | FinOps は、クラウドを「賢く使う」ための文化そのもの
今回のコラムで解説したように、FinOps は単なるコスト削減手法ではありません。その本質は、クラウドを賢く使いこなし、ビジネス価値を最大化し続けるための組織的な「文化」にあります。
クラウドの技術も市場の要求もつねに変化するため、一度の最適化で完了することはありません。組織の全員がコストと価値を意識し、継続的に改善のサイクルを回していくプロセスこそが重要です。
そして、その視点を「守りのコスト削減」から「攻めの価値創造」へと転換することが、クラウドを真の競争力に変える鍵となります。クラウドへの支出を単なる経費ではなく、ビジネスを成長させるための「投資」と捉え、データに基づいてその効果を最大化する。FinOps は、そのためのフレームワークです。
このような FinOps 文化の醸成や、より高度な最適化の実践には、専門的な知見が有効です。クラウドエースでは、FinOps の導入を支援するトレーニングから、専門家が客観的な視点で診断する「クラウドドクター」まで、みなさんの取り組みをあらゆる段階でサポートします。
クラウドのコストや活用法について課題をおもちでしたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
お問い合わせはこちら
https://cloud-ace.jp/contact/
クラウド環境の健康診断「クラウドドクター」の詳細はこちら
https://cloud-ace.jp/service/cloud_doctor/
ラリオス 川口

Google Cloud 認定トレーニング事業の立ち上げに従事し、国内トップクラスのトレーニングパートナーに成長させた。その後、自ら認定トレーナーとなり、さらにエバンジェリストの活動と合わせて、Google Cloud の普及と人材育成を牽引。講義の満足度にも定評があり、2025 年に新設されたグローバルな Google Cloud Trainer Difference Maker 賞を日本で初めて受賞。