こんにちは。クラウドエースの田中です。 分析基盤にデータは蓄積できているものの、ダッシュボードの表示が遅い。ログ検索に時間がかかる。顧客向け分析画面のフィルタを変更するたびに待たされる。 データ量やクエリ数が増えると、こうした応答速度の問題が表面化します。特にマーケティング分析、オブザーバビリティ、顧客向けダッシュボード、AIアプリケーションでは、大量のログやイベントを継続的に処理しながら、必要な情報をすぐに返す性能が求められます。 そこで選択肢となるのが、オープンソースのカラム型OLAPデータベース「ClickHouse」です。 本記事では、ClickHouseの特徴と高速に分析できる仕組み、代表的なユースケース、既存のDWHとの使い分け、導入時の注意点を解説します。 目次 Toggle ClickHouseとはClickHouseが大量データを高速に分析できる仕組みDWHとClickHouseをどう使い分けるかClickHouseの主な活用例ClickHouseを導入する際の注意点自然言語BI・AIとClickHouse導入前にPoCで確認すべき項目まとめ ClickHouseとは ClickHouseとは、大量データに対する分析クエリを高速に処理するために設計された、オープンソースのカラム型OLAPデータベースです。 特に、Webの行動イベントやアプリケーションログ、インフラログ、IoTデータなど、継続的に追加される大量データの集計・検索を得意としています。 SQLでクエリできるため、既存の分析ツールやBIツールと組み合わせることもできます。 参考:AIのためのデータプラットフォーム – ClickHouse カラム型ストレージで必要なデータだけを読み出す 一般的な業務システムでは、1件の注文や1人の顧客情報など、行単位でデータを読み書きする処理が中心です。 一方、分析では「直近30日間のクリック数を媒体別に集計する」といったように、大量の行から一部の列を読み出す処理が多くなります。 ClickHouseはデータを列単位で保持するカラム型ストレージを採用しています。クエリに必要な列だけを読み出せるため、大量データを対象とする集計処理で読み取り量を抑えられます。 ログ・イベント・時系列データに向いている ClickHouseの代表的な対象は、継続的に追加される次のようなデータです。 Web行動イベント 広告クリック、インプレッション、コンバージョン アプリケーションログ セキュリティログ インフラログ トレースデータ IoT・センサーデータ AIアプリケーションの実行ログ これらはデータ量が増えやすく、「特定期間のデータを絞り込む」「属性別に集計する」といった処理が繰り返されます。ClickHouseはこうしたクエリを高速に処理する用途で使われています。 ClickHouseが大量データを高速に分析できる仕組み ClickHouseの性能を支えているのは、カラム型ストレージだけではありません。 MergeTree系のテーブルエンジン、ORDER BYによるデータの並び順、データ圧縮、Materialized Viewなどを組み合わせ、クエリ時に読み込むデータ量と計算量を抑えています。 MergeTreeとORDER BYで読み取り範囲を絞る ClickHouseで広く使われるMergeTree系のテーブルエンジンでは、ORDER BYに指定したキーに沿ってデータがディスク上に並びます。 たとえば顧客向け分析サービスで、 「tenant_id = A、直近7日間」 という条件を頻繁に使うのであれば、tenant_idや日時を考慮してORDER BYを設計します。検索条件とデータの並び方が合っていれば、クエリ時に確認するデータ範囲を減らせます。 参考:MergeTree テーブルエンジン Materialized Viewで繰り返し計算を減らす ダッシュボードでは、同じ指標が何度も参照されます。 たとえば、 時間帯別のアクセス数 媒体別の広告効果 ステータスコード別のエラー率 顧客別の利用量 といった指標です。 毎回すべての生データから計算する代わりに、Materialized Viewなどを使って集計結果を保持すれば、ダッシュボード表示時の計算量を減らせます。 参考:materialized view を利用する 圧縮とTTLで大量データを管理する ログやイベントはデータ量が大きくなるため、分析性能だけでなく保存方法も課題になります。 ClickHouseでは、カラム型ストレージによる圧縮に加えて有効期限(TTL)を設定できます。 たとえば、 「詳細ログは30日間保存し、それ以前は削除する」 「古いデータは別のストレージへ移動する」 といったライフサイクルをデータに設定できます。 参考:有効期限 (TTL)でデータを管理する テーブル設計は性能を左右する ClickHouseの性能は、ORDER BYなどのテーブル設計と実際のクエリによって変わります。 たとえば、ORDER BYと検索条件が合っていない場合や、長期間のデータを毎回読み込む場合は、読み取り量が増えます。 導入時には、頻繁に実行するクエリをもとにORDER BYや集計方法を設計します。 DWHとClickHouseをどう使い分けるか ClickHouseはBigQuery、Snowflake、Databricks、Amazon Redshiftなどと比較されることがあります。ClickHouse自体をDWHとして利用することもできます。一方で、既存のDWHをすべてClickHouseへ置き換える必要はありません。 同じ分析用途でも、求められる応答時間や同時実行数によって適した構成は変わります。全社データの統合や部門横断分析をBigQueryなどのDWHで行いながら、低レイテンシや高頻度アクセスが求められる処理をClickHouseに担当させる構成もあります。 たとえば、Google Cloudを中心とした構成では、次のように役割を分けられますどちらを使うかは、製品カテゴリではなく、データ量やクエリ特性、同時実行数、求める応答時間などから判断します。 観点 DWH中心で処理しやすい領域 ClickHouseを組み合わせやすい領域 主な要件 データ統合、ガバナンス、部門横断分析 低レイテンシ、高頻度アクセス、高い同時実行性 代表的な利用 経営分析、標準BI、アドホック分析 顧客向け分析、ログ検索、オブザーバビリティ、分析API クエリ特性 複雑な横断分析や探索的なSQL 大量データを対象とした高速な集計・絞り込み 応答速度 秒〜数十秒でも成立する分析 サブ秒〜数秒など短い応答時間が重要な処理 利用者 社内アナリスト・BIユーザー中心 エンドユーザーやアプリケーションからの高頻度アクセス これは製品の明確な境界ではありません。ClickHouseをDWHとして利用することも、BigQueryなどを顧客向け分析に利用することもできます。重要なのは製品カテゴリで分けるのではなく、実際のワークロードに応じて使い分けることです。 ClickHouseの主な活用例 ClickHouseの特徴が活きる代表的なユースケースを見ていきます。 マーケティング分析 広告クリック、インプレッション、Web行動イベント、購買データなどを継続的に取り込み、媒体別やキャンペーン別に集計できます。 たとえば、 媒体別の広告効果 キャンペーン別のクリック率・コンバージョン率 LP別の流入・離脱 時間帯別のアクセス状況 顧客向けレポート などです。 当日のデータを見ながら施策を調整する運用では、データ量だけでなく、集計結果が返るまでの時間も業務のスピードに影響します。 ログ解析・オブザーバビリティ アプリケーションログ、セキュリティログ、インフラログ、トレースなども代表的なユースケースです。 障害調査では、 エラー率の時系列変化 ステータスコード別の傾向 特定ユーザーやテナントのログ 障害発生前後のイベント などを大量のログから絞り込みます。 ClickHouseはこうしたオブザーバビリティデータの保存・分析エンジンとして利用できます。また、ClickHouseではオブザーバビリティ向けの「ClickStack」も提供されています。ClickStackはClickHouseを基盤として、ログ、メトリクス、トレースなどの観測データを扱うためのオープンソースのオブザーバビリティスタックです。 ClickHouseを既存の監視ツールと組み合わせる構成に加え、ClickStackを使ってオブザーバビリティ環境を構築する選択肢もあります。 ※ClickStackの提供機能や構成については、公式ドキュメントの最新情報をご確認ください。 顧客向け分析・埋め込み分析 SaaSやWebサービスの管理画面に分析機能を組み込む用途でもClickHouseが使われています。 たとえば、 SaaSの利用状況ダッシュボード 広告管理画面のキャンペーンレポート EC管理画面の売上推移 セキュリティサービスのイベント検索 などです。 こうした画面では、多数のユーザーが同時にアクセスし、日付やカテゴリ、ステータスなどのフィルタを何度も変更します。分析処理がそのままプロダクトのユーザー体験になるため、クエリの応答時間が重要な指標になります。 一方、顧客データを扱う場合は、tenant_idによるデータ分離だけでは不十分です。認可、クエリ制限、監査ログなども含めてアプリケーション全体で設計します。 AIログ分析・AIオブザーバビリティ 生成AIやAIエージェントでは、通常のアプリケーションログに加えて、次のようなデータが発生します。 プロンプト レスポンス 利用モデル トークン利用量 レイテンシ ツール呼び出し 評価スコア ユーザー別利用状況 これらを蓄積すると、モデル別のレイテンシ比較、トークンコストの分析、エラー調査、品質評価などに利用できます。 AIログにはプロンプトやレスポンスなど機密情報が含まれる場合もあるため、PIIマスキング、アクセス制御、保持期間、監査ログについてもあわせて検討します。 参考: Langfuseとは – ClickHouse Docs Langfuse Cloud、 日本で動きます。 ClickHouseを導入する際の注意点 ClickHouseには得意なワークロードがある一方、一般的なOLTPデータベースやDWHと同じ使い方をすると、その特徴を活かせない場合があります。 頻繁な行単位更新を行うシステムとは役割が異なる ClickHouseには更新・削除の仕組みがありますが、注文処理、在庫更新、決済処理など、1行ずつ頻繁にデータを書き換える業務処理を主用途とするデータベースではありません。 こうした処理にはOLTP向けデータベースを使い、分析対象となるイベントをClickHouseへ送る構成が基本となります。 繰り返し実行される集計は事前集計を検討する ダッシュボードや顧客向け画面では、同じような集計や絞り込みが繰り返し実行されます。 すべてのリクエストで生データから集計するのではなく、Materialized Viewや集計済みテーブルを使い、あらかじめ必要な単位で集計しておく方法があります。 実際に頻繁に実行されるクエリをもとに、事前集計する指標や粒度を決めます。 JOIN中心の分析ではデータモデルを検討する ClickHouseでもJOINは利用できます。 ただし、短い応答時間が求められるクエリで多数のテーブルを毎回JOINする場合は、非正規化やDictionary、Materialized View、集計済みテーブルなどを使い、クエリ時の処理を減らす設計も検討します。 認可やガバナンスはシステム全体で考える 顧客向け分析やAIログを扱う場合は、データベースの性能だけでは要件を満たせません。 テナント分離 認可 PIIマスキング 監査ログ データ保持期間 クエリ制限 などをアプリケーションや周辺サービスも含めて設計します。 自然言語BI・AIとClickHouse 自然言語BIでは、ユーザーの質問からAIがSQLを生成し、分析基盤に問い合わせて結果を返します。 たとえばユーザーが、 「先週と比べてコンバージョン率が下がったキャンペーンを教えて」 と質問すると、AIがSQLを生成し、分析基盤から結果を取得して回答します。 この仕組みでは、SQL生成だけが速くても十分ではありません。分析クエリの実行に数十秒かかれば、会話のテンポが崩れます。 大量データに対する集計を高速に処理できるClickHouseは、この実行部分を担う選択肢になります。 一方、AIにSQLを自由生成させると、必要以上に長い期間の検索や不要なJOIN、tenant条件の欠落などが発生する可能性があります。 そのため実運用では、 利用可能なテーブル・カラムの制限 セマンティックレイヤー SQL生成時のガードレール 最大検索期間 集計済みテーブルへの誘導 クエリ監視・制限 などを組み合わせます。 実装方法としては、LibreChatのような対話型UIからMCPを介してClickHouseへ接続する構成や、エージェントによる分析フローなども考えられます。 参考: リアルタイムデータ上のAIのためのオープンプラットフォーム – ClickHouse LibreChatでClickHouse MCPサーバーを使用する 導入前にPoCで確認すべき項目 ClickHouseの性能は、データ構造や実際に発行されるクエリによって変わります。 そのため、製品ベンチマークの数値だけではなく、自社のデータと代表的なクエリを使ったPoCで判断します。 確認項目の例は次のとおりです。 代表的なクエリのp50、p95、p99レイテンシ 複数ユーザーによる同時実行時の性能 データ取り込みから検索可能になるまでの時間 tenant・期間など主要な検索条件での性能 JOINを含むクエリの性能 Materialized View導入前後の性能差 データ保持期間ごとのストレージ使用量・コスト 既存DWHとのデータ連携方法 権限制御・監査ログ・クエリ制限 監視・バックアップ・障害対応 単純に「ClickHouseは速いか」を測るのではなく、実際のデータ量、クエリ、同時実行数を再現し、求める応答時間を満たせるかを確認することがPoCの目的です。 まとめ ClickHouseは、大量のログやイベントに対する集計・検索を高速に処理するカラム型OLAPデータベースです。既存DWHを一律に置き換えるのではなく、顧客向け画面やログ検索など、応答速度が求められる処理を担わせる構成も考えられます。 導入を検討する場合は、高速化したいクエリ、データ量、同時実行数、目標とする応答時間を整理し、実データを使ったPoCで性能とコストを確認します。 クラウドエースでは、Google CloudやBigQueryを活用したデータ基盤の構築に加え、ClickHouseを組み合わせた分析基盤の設計・導入も支援しています。 ClickHouseの導入・運用支援をクラウドエースが支援します 大量のデータを高速分析できるClickHouseの導入や活用なら、クラウドエースにご相談ください。要件整理から検証、構築、運用定着まで一気通貫で支援します。 ClickHouse導入・運用支援について詳しく見る ClickHouseについて相談する 田中 悠路 管理部門およびシステム部門での実務を経て、社会保険労務士としての独立も経験。その後は事業会社にて、業務フロー整備、商品・仕入管理システムの構築、ECシステムの内製化、部門立ち上げ、マネジメントを推進。2023年にクラウドエースへ参画。BIツールのプリセールス・導入支援、カスタマーサポート、データ分析基盤構築などの案件に従事。大学での特別講義や自社セミナーでの登壇実績も多数。