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BigQuery とは – Google Cloud
こんにちは。クラウドエース編集部です。
はじめに
『データ』はビジネスの新たな原点と言われ、競争優位性を生み出す重要な資産となっています。しかし、データ量の急激な増加に伴い、従来のオンプレミス型データウェアハウスでは、スケーラビリティ、パフォーマンス、コスト面での課題が顕在化しています。
クラウドデータウェアハウスは、こうした課題を解決し、ビジネスのデータ活用を加速するサービスとして注目を集めています。中でも Google Cloud の BigQuery は、高速性、スケーラビリティ、シンプルな運用管理を強みに、急成長を遂げています。
本記事では、BigQuery の概要、ビジネスメリット、導入事例や他サービスとの比較を通じて、BigQuery の特徴やユースケースを解説します。
データウェアハウスとは
(クリックで詳細が開きます)
企業内の様々なシステムから生成されるデータを一元的に集約し、意思決定に活用するための基盤です。それにより、大量のデータを効率的に保存・管理し、高速な分析処理を可能になり、データの整合性や品質を維持しつつ、ビジネスインテリジェンス(BI)やデータマイニングなどの用途で活用することができます。
データウェアハウスには、従来から存在するオンプレミス型とクラウド型があります。
オンプレミス型
企業が自社のデータセンターにハードウェアとソフトウェアを設置し、運用するタイプで、初期投資と運用コストがかかるが、データの機密性が高い場合や、既存システムとの統合が必要な場合に適しています。
一方で、スケーラビリティや柔軟性の面では、クラウド型に劣る傾向があります。
プロダクト例
- Oracle Exadata
- IBM Db2 Warehouse
- Microsoft SQL Server
クラウド型
クラウドプロバイダーが提供するマネージドサービスを利用するタイプです。ハードウェアの調達・運用は不要で、従量課金モデルによりコストを最適化することができ、高いスケーラビリティと柔軟性を備え、データ量の増大に応じて容易に拡張することができます。また、セキュリティや可用性も、クラウドプロバイダーによって担保されます。
プロダクト例
- Amazon Redshift
- Google BigQuery
- Snowflake
- Microsoft Azure Synapse Analytics
BigQuery の概要
BigQuery は、Google Cloud が提供するフルマネージド型クラウドデータウェアハウスです。ペタバイト*級のビッグデータを、高速かつシンプルに分析できることが特長です。
BigQuery のアーキテクチャは、ストレージ(Colossus)、実行エンジン(Dremel)、クラスター管理(Borg)という独自の分散システムで構成されています。ストレージとコンピュートの分離、カラムナフォーマットと圧縮技術による高速なスキャン、動的なノード割り当てなどにより、大規模データを高速かつ柔軟に処理できます。
ペタバイトについて
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*1 ペタバイト = 1000 テラバイト = 1,000,000 ギガバイト
1 ペタバイトは、4K 動画約 10,000 時間分、金融市場における数十年分の市場データとトランザクション履歴、数十億の SNS 投稿データといった規模感になります。
個人での分析でそこまで大規模なデータを分析することはないと思いますが、大規模なビジネスでのデータ利活用において数テラバイト〜ペタバイトの分析を行うケースは想定されます。
BigQuery の特徴
フルマネージド&サーバーレス
インフラ管理やキャパシティプランニングは全く不要です。
サーバーレスアーキテクチャにより、システム構成や調整に煩わされることなくデータ分析に専念できます。
高速&大規模
列指向データベース*と分散処理技術により、ペタバイト級のデータでも数十秒で分析することができます。標準 SQL をサポートしているため、利用も複雑ではないため、クエリ結果をその場で確認しながら、インタラクティブに分析することが可能です。
列指向データベースとは・・・
(クリックで詳細が開きます)
データを列単位で格納するデータベースのことです。
従来からある MySQL や postgreSQL などは 1 つのデータを 1 レコードとして保存していますが、列指向データベースは、データを列単位で格納することで、同じ列に属する値を連続して保持しています。
これにより、特定の列の値だけを抜き出したり、その列の値の合計値や平均値などを計算したり、する上で大幅に処理性能を向上させることができるため、データ分析の分野では広く利用されるようになってきています。
スケーラビリティ
ストレージとコンピュートが完全に分離され、それぞれ独立して自動スケーリングします。データ量や同時実行クエリが増えても、一定のパフォーマンスを維持し続けます。
シンプルな操作性
SQL でのシンプルな分析、豊富な BI ツール連携、エンジニアの使いやすいインタフェースの提供など、誰でも簡単にデータ分析を行うことができます。
また、ユーザ定義クエリも作成可能で、複雑なクエリ操作も可能です。
セキュリティ
IAM 、暗号化、監査ログなど Google Cloud のセキュリティサービスと連携しています。高度なデータガバナンスとコンプライアンスを実現しているためセキュリティ対策など独自に検討する必要性がほとんどありません。
BigQuery のビジネスメリット
BigQuery は、ビジネスのデータ活用に次のような価値をもたらします。
俊敏なデータ活用
従来型のデータウェアハウスに比べ、データのロードから分析までの時間を大幅に短縮します。それによりユーザごとにことなる柔軟で即時性のある分析やデータサイエンス、機械学習など、より高度なデータ活用が可能になります。
コストパフォーマンス
サーバーレスで完全な使った分だけ課金のため、初期投資不要で運用コストを最適化できます。計算リソースやストレージの容量を管理するような場合に比べ、インフラ調達や運用の手間とコストを削減できます。
新たな分析・サービスの創出
大規模データをリアルタイムに分析できるため、これまでにない仮説検証やアイデア実現が可能になります。データに基づく新サービス開発やビジネスモデル変革を加速できます。
運用負荷の軽減
フルマネージドのため、バージョンアップ、キャパシティ増強、バックアップなどの運用作業から解放されます。技術者リソースをより価値の高い分析タスクにシフトすることができます。
高度なセキュリティ
データ暗号化、アクセス制御、監査ログなど、Google Cloud 由来の高度なセキュリティ機能を利用可能。厳格なデータガバナンスやコンプライアンスにも対応できます。
AI サービスとの連携
BigQuery は BigQuery ML を利用することで Gemini モデルを利用した企業データのマルチモーダル生成 AI を作成することができます。また、Vertex AI や音声テキスト変換 API などを活用することで、非構造化データを分析することが簡単にできるようになります。
このように Google Cloud の提供する AI/ML サービスと連携することで、単なるデータ分析以上の価値を提供できるようになります。
導入事例
1. X(旧 Twitter)の投稿分析
X(旧 Twitter)は、ユーザーの行動分析と広告配信最適化のため、BigQuery を全社的に導入しています。1 日に約 5 PB(ペタバイト)ものツイートデータが生成されますが、BigQuery を使うことでこの膨大なデータをリアルタイムに分析することが可能になりました。
具体的には、ユーザーのツイート内容や行動履歴などのデータを分析し、ユーザーの興味関心や嗜好を詳細に把握。この知見を元に、よりパーソナライズされた広告の配信や、ユーザーエンゲージメントの向上につながるコンテンツのレコメンドを行っています。
BigQuery の高速なクエリ処理によって、大規模データに対する複雑な分析もインタラクティブに実行できるようになり、データドリブンなプロダクト開発とマネタイズ戦略の高度化を実現しています。
https://cloud.google.com/blog/ja/products/data-analytics/the-resource-hierarchy-for-adopting-google-cloud-bigquery-across-twitter?hl=ja
2. ニューヨーク・タイムズ の閲覧データ分析
ニューヨーク・タイムズは、ニュース記事の閲覧ログデータを BigQuery で分析し、サブスクリプションビジネスの拡大に役立てています。
具体的には、読者一人ひとりの記事閲覧履歴や滞在時間、スクロール速度などの行動データを分析。読者の関心が高いトピックやストーリーを特定し、パーソナライズされた記事のレコメンドを実現しています。
また、記事の内容やメタデータと、読者の属性や行動の相関関係を分析することで、新たな読者セグメントの発見や、各セグメントに最適化された課金プランの設計にも活用しています。
BigQuery を使った詳細な読者理解により、有料会員数の増加と読者ロイヤルティの向上を実現しています。
https://cloud.google.com/blog/products/data-analytics/how-the-new-york-times-build-an-end-to-end-cloud-data-platform
3. Spotify の再生履歴分析
音楽ストリーミングサービスの Spotify は、BigQuery を使って全世界の音楽視聴データを分析し、ユーザー体験の向上と音楽業界のビジネスモデル変革に役立てています。
同社では、ユーザーの音楽再生履歴や検索クエリ、プレイリストへの追加など、大量の視聴データが日々生成されます。これらのデータを BigQuery に集約し、ユーザーの嗜好や行動パターンを分析。パーソナライズされた楽曲のレコメンドや、新しい音楽ジャンルの発見に活用しています。
また、アーティストごとの再生回数やリスナー属性の分析から、マーケティング戦略の最適化や、新たなヒット曲の発掘にもつなげています。
BigQuery の分散処理技術により、数百ペタバイトにおよぶ大規模な視聴データを高速に処理。機械学習を活用した高度な分析を実現し、ユーザー満足度の向上と音楽業界の変革に貢献しています。
https://cloud.google.com/customers/spotify
競合サービスとの比較
BigQuery と同様のクラウドデータウェアハウスには、以下のようなサービスがあります。
- Snowflake
- Amazon Redshift
- Azure Synapse Analytics
それぞれのサービスの特徴について説明します。
Snowflake
クラウドデータウェアハウスに特化したサービスで、近年急速に利用が増えています。
ストレージと計算リソースを分離してスケールさせることができるため、運用オペレーションは発生しますが、コストを最適化することができます。
他クラウドサービスとの連携も容易に行うことができるため、マルチクラウドで運用している場合は検討候補になります。
また、データを他の利用者に提供する機能もあるため、自社だけでの利用ではなく、外部への提供を考えている場合は Snowflake の利用を検討すると良いと思われます。
Amazon Redshift
AWS が提供するクラウドデータウェアハウスで、 Amazon S3 、Aamazon EMR などの AWS サービスとシームレスにデータ連携できることが特徴です。
AWS をメインに利用している場合は第一候補に上がります。
クラスター単位の時間課金制のため、コストの見積もりは比較的行いやすいというのが特徴です。
Azure Synapse Analytics
Azure が提供するクラウドデータウェアハウスで、Azure Data Factory や Power BI などの Azure のサービスと簡単に連携することができるので、Azure をメインに利用している場合、選択肢に入ります。
サービス同士の簡易な比較は以下の通りです。
比較項目 | BigQuery | Snowflake | Amazon Redshift |
Azure Synapse Analytics |
---|---|---|---|---|
パフォーマンス | とても高速 | とても高速 | 高速 | 高速 |
スケーラビリティ | 自動 | 自動 | 手動 | 手動 |
料金体系 | 従量課金 | 従量課金 (ストレージ + 計算リソース) |
ノード数課金 | クラスター単位 |
運用管理性 | 管理不要 | 管理不要 | 管理必要 | 管理必要 |
セキュリティ性 | 高い | 高い | 高い | 高い |
クエリ言語 | 標準SQL | 標準SQL | PostgreSQL | Transact-SQL |
エコシステム | Google Cloud Google Analytics Google Spreadsheets Looker Studio |
Google Cloud AWS Azure |
AWS | Azure |
サービス選択のフロー図
BigQuery を導入する上で大切なこととは
データドリブンな経営戦略
BigQuery を導入するだけでは、その価値を最大化することは難しいです。大切なことは、データドリブンな意思決定とイノベーションの重要性を経営方針として重視することです。BigQuery を導入して成功している企業は、蓄積された大量のデータを活用し、顧客理解、業務効率化、新たな製品・サービス開発などに取り組んでいます。
例えば、営業、マーケティング、顧客サポートなどの部門が、BigQuery を通じて顧客データを共有・分析することで、全社的な顧客理解を深め、よりパーソナライズされたアプローチを実現できます。
また、BigQuery をデータドリブン経営の中核に据えることで、データ活用のための組織体制や人材育成の方向性も明確になります。例えば、データサイエンティストやデータアナリストといった専門人材の育成・確保や、ビジネス部門と IT 部門の連携強化などが求められます。
データカルチャーの醸成
データドリブンな組織を作るには、社内のデータ活用文化を育てることが重要です。BigQuery は、シンプルな操作性と高度な分析力を兼ね備えているため、データカルチャーの醸成に適したツールと言えます。
例えば、BigQuery の簡単な WebUI や SQL 言語をベースとした操作性は、ビジネスユーザーにもデータ分析の敷居を下げます。マーケターや営業担当者など、これまでデータ分析に馴染みのなかった人材も、BigQuery を通じてデータに触れる機会が増えることで、データリテラシーの向上が期待できます。
また、BigQuery をハブとして、データサイエンティストとビジネス部門の交流を促進することも重要です。データサイエンティストがビジネスの文脈を理解し、ビジネス部門がデータ分析の価値を実感できるよう、両者の対話と協働を支援する場として BigQuery を活用できます。
加えて、データ活用の成果を組織全体で共有する仕組みづくりも重要です。BigQuery で得られたインサイトが、実際の業務改善やイノベーションにつながった事例を積極的に共有することで、データ活用の意義や価値を組織に浸透させていくことができます。
こうした地道な取り組みの積み重ねが、データ駆動型の企業文化を根付かせ、持続的なイノベーションを生み出します。
まとめ
本記事では、BigQuery の特長とビジネス活用のポイントを解説してきました。BigQuery は、高速性、スケーラビリティ、運用のシンプルさを兼ね備えた、先進的なクラウドデータウェアハウスです。大規模データのリアルタイム分析やデータサイエンス基盤として、ビジネス価値創出に大きく貢献します。
一方で、データ基盤の選定はシステム要件や社内事情によっても判断が分かれる難しい課題です。
BigQuery が最適であるかは自社のデータ活用ビジョンとシナリオを見据え、BigQuery のメリットが最大限発揮できる領域を見極めることが大切です。
※Google Cloud、BigQuery、Vertex AI、Google Analytics、Looker Studio は Google LLC の商標です。
※AWS は Amazon.com, Inc. またはその関連会社の商標です。
※IBM Db2 Warehouse は、IBM Corporation の米国およびその他の国における登録商標です。
※Oracle Exadata は Oracle、その子会社及び関連会社の米国及びその他の国における登録商標です。
※Microsoft SQL Server は米国マイクロソフト社の商標です。
※Snowflake は、Snowflake Inc.の米国およびその他の国における商標または登録商標です。
※X は、X Corp.の商標または登録商標です。
※The New York Times はニューヨーク・タイムズ・カンパニーの商標です。
※Spotify は Spotify グループの登録商標です。
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