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インフラ企業の厳格なセキュリティと生成AI活用を両立。 RAG構築キット「RAK」を採用し、わずか4ヶ月で社内規程検索AI「さがすくん」をローンチ

東海3県(愛知・岐阜・三重)を中心に、ガス・電気などのエネルギー供給を行うインフラ企業、東邦ガス株式会社(以下、「東邦ガス」)。中期経営計画においてDXを重要課題に掲げ、デジタル技術を活用した業務変革と新たな価値創造に取り組んでいる東邦ガスでは、長年の業務で蓄積された社内規程やマニュアルが各所に散在し、情報検索が業務のボトルネックとなっていました。

この課題を解決するため、東邦ガスは生成AI活用のパートナーとしてクラウドエース(以下、「弊社」)を選定し、RAG構築パッケージ「RAK(RAG Accelerator Kit)」を採用。インフラ企業特有の厳格なセキュリティ要件をクリアしながら、わずか4ヶ月という短期間で社内規程検索AI「さがすくん」をローンチしました。

本記事では、『まずはAIに聞く』ことが当たり前になる環境を作り、業務効率化を実現した東邦ガスの取り組みに迫ります。

(左から)
クラウドエース株式会社
技術本部 コンサルティング部 / 名島 拓哉
事業推進本部 第一事業部 / 池永 貴裕
東邦ガス株式会社 DX推進部 DX第二グループ / 土井 隆広氏
東邦ガス情報システム株式会社 デジタルソリューション部 デジタル第2グループ / 佐藤 昂右氏
東邦ガス株式会社 人事部 人事企画グループ/ 向山 さくら氏

散在する社内規程・マニュアルが引き起こす「検索の迷子」

東海地方のライフラインを支える東邦ガス。東邦ガスでは、長年の業務の中で蓄積された膨大な社内規程やマニュアルが、社内ポータルの各所に散在しており、必要な情報の検索に時間がかかることが課題となっていました。

東邦ガス株式会社 DX推進部 DX第二グループの土井 隆広氏は、プロジェクト発足の背景についてこう語ります。

東邦ガス株式会社 DX推進部 DX第二グループ / 土井 隆広氏

「私自身が中途入社した際、人事規程や社内手続きの情報を探すのに非常に時間がかかりました。正式な情報がどこにあるか分からず、情報の所在を把握することに苦労しました。現場の社員にヒアリングを行ったところ、多くの社員が同様に情報検索に対して、少なからぬ労力を割いている実態が明らかになりました」(土井氏)

人事部で社内規程を管理する向山氏も、管理側の苦労を指摘します。特に東邦ガスでは、チャットボットも一定程度活用されており、その更新・メンテナンスには多くの工数を要していました。また、メールや電話での人事部への問い合わせが多く発生しており、対応側の大きな負担となっていました。

東邦ガス株式会社 人事部 人事企画グループ/ 向山 さくら氏

「例えば、社員が人事規程などを調べる場合、関係しそうなPDFをいくつも開いて内容を確認するため、1つの回答を得るのに15分から20分ほどの時間がかかっていました。 また、管理側としても、当時は週に約100件(1日20件程度)もの問い合わせが寄せられていました。 こうした問い合わせへの対応に加えて、チャットボットのメンテナンスにも時間を割かれていたため、業務効率化の余地が大きいと考えていました」(向山氏)

東邦ガスは生成AI、特に社内データを検索・参照しながら回答するRAG(検索拡張生成)技術が、この課題解決に有効であると考えました。

しかしその一方で、RAGの構築には「社内機密文書をどこに格納し、どのような通信経路でAIに参照させるか」というアーキテクチャの設計が不可欠であり、これは企業のセキュリティポリシーと密接に関わります。 インフラ企業として高いセキュリティ基準を持つ東邦ガスにとって、情報の取り扱いと安全性の担保は、導入の可否を左右する重要な検討事項でした。

厳格なセキュリティと迅速なシステム構築を両立したAI開発基盤

Google Cloudの活用実績があった東邦ガスは、開発パートナーとしてクラウドエースを選定しました。数ある選択肢の中から、弊社のRAG構築パッケージ「RAK (RAG Accelerator Kit)」を採用した背景には、維持保守のしやすさと開発スピードの両立がありました。

RAKは、セキュアな生成AI環境を短期間で構築できるパッケージキットです。ソースコードが提供される「買い切り型」のため、ベンダーに依存せず、インフラ企業特有の厳格なセキュリティ要件に合わせた柔軟なカスタマイズが可能です。

実装フェーズにおいては、東邦ガス情報システム株式会社が中心となり、プロジェクトを推進しました。将来的な維持保守のしやすさを最優先に考えた要件定義を行い、そこに弊社の技術的知見を掛け合わせることで、東邦ガスの環境に最適化されたシステムを短期間で構築しました。東邦ガス情報システム株式会社 デジタルソリューション部 デジタル第2グループの佐藤 昂右氏は、選定理由をこう説明します。

東邦ガス情報システム株式会社 デジタルソリューション部 デジタル第2グループ / 佐藤 昂右氏

「当初はフルスクラッチでの自社開発も検討しましたが、基盤構築やセキュリティ実装をゼロから積み上げると、要件定義から安定稼働までに当初の目標納期を大幅に超過する見込みでした。一方でクラウドエースのRAKは、RAGに必要なコア機能が高度にパッケージ化されています。これに当社の固有要件を組み込むカスタマイズに注力することで、品質を担保しつつ大幅な短縮を実現できるという判断に至りました。」(佐藤氏)

また、選定段階で具体的な完成イメージを持てたことも大きな要因となりました。当時の提案について池永はこう振り返ります。

クラウドエース株式会社 事業推進本部 第一事業部 / 池永 貴裕

「提案段階で『これがベースになるものです』と、実際のデモ環境を見せることができたのも大きかったです。紙の資料だけでなく、出来上がりのイメージをご提案段階で持っていただいていたのが、安心してスムーズにプロジェクトをスタートできたポイントだと思います」(池永)

信頼性と機動力を高度に融合 「ワンチーム」でクリアした高難度の実装要件

2024年12月にプロジェクトが始動しました。ターゲットは3月末のリリース。実質4ヶ月という短期間での開発において、最大のハードルとなったのはセキュリティ要件への対応でした。

重要インフラを担う東邦ガスのセキュリティ基準は極めて厳格であり、社内システムは外部インターネットへの接続を遮断した「閉域網」であることが前提でした。そのため、クラウドサービスを利用する上でも、社外への通信制御やポリシー設定には慎重かつ高度な対応が求められました。

標準的な構成では対応できないこれらの課題に対し、プロジェクトはワンチームで推進され、両社が即座に同期を取りながら解決策を実装していくスタイルで進められました。

プロジェクトマネージャーとして参画したクラウドエース 技術本部 コンサルティング部の名島 拓哉はこう語ります。

クラウドエース株式会社 技術本部 コンサルティング部 / 名島 拓哉

「プロジェクトを進める中で、アプリケーション開発そのものよりも、厳格なセキュリティポリシーに準拠したインフラ環境の構築により高い技術的ハードルがあることが明確になりました。そこで、弊社のSRE(Site Reliability Engineering)チームからインフラのスペシャリストを増員し、アプリ開発とインフラ構築のリソース配分を最適化することで、この課題に対応しました」(名島)

こうした対応の一環として、機能面では、将来の維持管理を見据え、東邦ガス情報システムと共同で開発基盤の整備に注力しました。4か月という短期間で高品質なシステムを構築するため、CI/CDや厳格なソースコード管理、稼働後のモニタリングの仕組みを導入。RAKをベースに保守性の高い環境を整えることで、スピードリリースと安定運用の両立を実現しました。

セキュリティ対応によりスケジュールはタイトになりましたが、両社が密に連携しながら優先順位を整理することで、最終的には計画通りの納期でリリースを実現しました。

全社展開で根付いた自己解決の文化、愛称は「さがすくん」

2025年3月末に完成したシステムは「さがすくん」の愛称で、親しみやすい存在として社内への早期浸透を後押ししています。

利用は段階的に進められ、5月にはコールセンター業務のマニュアル検索からスモールスタートし、8月には人事規程の検索用として全社公開。現在ではグループ社員が利用可能な環境が整いました。

導入効果について、向山氏は徐々に変化を感じています。

「人事担当者からは、規程に記載されている基本的な内容に関する問い合わせが減ったという声が上がっています。また、管理側の大きな負担となっていたチャットボットのメンテナンスについても、月3〜4時間の工数削減を実現できました。規程改定に合わせた修正漏れのリスクも低減でき、業務効率が大きく向上したと感じています。さらに、掲示板での発信やメールの署名に『まずはさがすくんで検索』と入れるなどの周知を行ったこともあり、問い合わせの前にまず自分で調べるという習慣がつき始めていると感じています」(向山氏)

「検索」から「エージェント」へ、真の業務改善を目指すパートナーシップ

今回のプロジェクトの成果は、単なるツールの導入に留まりません。クラウドエースによって構築された開発基盤は、今後の東邦ガスのDXを支える資産となっています。

「導入して終わりではない」──。池永は、リリース後の継続的な支援について決意を新たにします。

「導入して終わりではなく、これをより良くしていくのが我々の仕事です。『どうすれば業務が本質的に良くなるか』という視点を常に持ち、今後もお客様と手を組みながら、単なるシステム導入の枠を超えた本質的な業務改善をご支援していきます」(池永)

こうした技術支援を基盤に、東邦ガスが見据えるのは、さらなるデジタルの活用と業務の自動化です。 今後の展望について、土井氏は次のように語ります。

「まずはUIの改善を進め、より全社が必要とする使いやすいシステムに育てていきます。将来的には、RAGによる検索だけでなく、後続のアクションへのシームレスな接続を可能にするAIエージェントへの進化も視野に入れています。検索業務だけでなく、一連の業務プロセス全体を効率化していきたいと考えています」(土井氏)

また、佐藤氏も、運用の観点からこう語ります。

「AI領域は新しい技術が次々と登場します。それらを随時キャッチアップしつつ、グループ全体へ展開していく上でも、今回構築した基盤を効率的に維持・運用していきたいと考えています」(佐藤氏)

「まずはAIに聞く」文化の定着から、業務プロセスの自動化へ。重要インフラとしての責任を果たしながら、最新技術の活用を通じて、東邦ガスはさらなる業務変革と価値創造に取り組んでいきます。

利用したサービス

買い切り型生成AIチャットボットキット RAG Accelerator Kit(RAK)
買い切り型の生成AIチャットボットキットで、生成AIチャットアプリに必要な機能を標準装備し、ソースコードライセンスを提供。検索拡張生成というRAGを用いることでハルシネーションを防ぎ、社内情報から的確に応答します。迅速に導入できるキット形式なので生成AI開発の内製化に最適です。

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