2025年10月10日、Google Cloudはオンラインイベント「Gemini at Work」にて、企業のAI活用を根底から変革する、包括的かつ統合された高度なエージェントプラットフォーム「Gemini Enterprise」を正式に発表しました。
それは単なる新しいAIツールではありません。Microsoft 365やSalesforceといった日常的に利用する様々な業務ツールと連携し、AIを業務プロセスの中心に据えるための、いわば「職場におけるAIの新しい入り口」となる存在です。
本記事では、この「Gemini Enterprise」が一体どのようなサービスで、私たちの働き方をどう変えるのか、その機能から料金、具体的な活用例までを分かりやすく解説します。
Gemini Enterpriseとは?
Gemini Enterpriseとは、Google Cloudが新たに提供を開始する、企業のAI活用を根底から変革するために設計された、包括的かつ統合された高度なエージェントプラットフォームです。
単なるAIチャットボットとは一線を画し、日常業務で利用する様々なツールと連携しながら、複雑なワークフロー全体を自動化する能力を持ち合わせています。Google Cloudは、このGemini Enterpriseを「職場におけるAIの新しい入り口」と位置づけています。
AIが「アシスタント」から「業務実行者」になるプラットフォーム
Gemini Enterpriseが目指すのは、AIを単なる指示待ちの「アシスタント」から、ビジネスの文脈を深く理解し、自律的に業務を遂行する「実行者(エージェント)」へと進化させることです。
これにより、従業員は日々の反復的なタスクや、複数のツールをまたいだ煩雑な作業から解放されます。そして、人間ならではの創造性や戦略的な意思決定といった、より付加価値の高い業務に集中できる環境を実現します。
Gemini Enterpriseは、AIを道具として使うのではなく、業務を遂行するパートナーとしてチームに迎え入れるためのプラットフォームなのです。
従来のAIチャットボットとの違い
従来のAIチャットボットが、質問応答や文章の要約など、単一のタスクを処理することを得意としていたのに対し、Gemini Enterpriseは複数のアプリケーションを横断するワークフロー全体の自動化を目的としています。
例えば、「10月のセールス会議を設定して」といった自然言語での指示一つで、関係者のスケジュール確認から議題の作成、会議の招集までを完結させることが可能です。これは、単に答えるだけのAIではなく、業務を理解し実行するAIであることの大きな違いです。
中核機能として統合された「Google Agentspace」
AIエージェントを大規模に構築・管理するプラットフォームとして提供されていた「Google Agentspace」は、現在Gemini Enterpriseの中核機能として完全に統合されることになりました。
この統合により、専門知識を持たない従業員でも、自らの業務を自動化するAIエージェントをノーコードで開発できる強力な基盤が実現されており、Agentspaceが目指したビジョンが、より広範な形でGemini Enterpriseに受け継がれたと言えるでしょう。
「Google Agentspace」については、以下の記事で詳しく紹介しております。こちらもぜひご覧ください。
▼Google Agentspaceの詳細はこちらから▼
AIが経営を変える! Google Agentspaceが実現する次世代の最新戦略
Gemini Enterpriseを構成する6つの中核機能
Gemini Enterpriseは、Google Cloud CEOのトーマス・クリアン氏がイベントで語った、以下の6つの強力なコンポーネントを統合したプラットフォームです。これらの機能が連携することで、AIエージェントは企業の複雑な業務を理解し、実行することが可能になります。一つずつ見ていきましょう。
1. The Brains-世界クラスのAIモデルへのアクセス
Gemini Enterpriseの頭脳として機能するのが、Googleが誇る世界最高クラスのAIモデル群です。「The Brains」とも呼ばれるこのコンポーネントは、すべてのAIエージェントとアプリケーションに動力を与える、まさに世界クラスの知性と言えます。
ユーザーは、テキスト、画像、音声などを自在に扱う最先端のマルチモーダルモデル「Gemini」へ即座にアクセスできます。
さらに、高品質な画像生成モデル「Imagen」や、動画生成モデル「Veo」など、特定のタスクに特化した多様な生成AIモデルも利用可能です。これにより、企業のあらゆる複雑な課題解決をAIが強力にサポートします。
2. The Workbench-エージェントプラットフォームとノーコード開発
「The Workbench」とも呼ばれるこのコンポーネントは、組織内の誰もがAIエージェントを構築し、業務プロセス全体を調整(オーケストレーション)できるようにする、エンタープライズグレードのフレームワークです。
最大の特長は、マーケティングや財務、人事といった開発者ではない従業員でも、強力なノーコードツールを使って、開発者と同じセキュアなプラットフォーム上で独自のAIエージェントを構築できる点です。
これにより、専門知識の有無にかかわらず、組織全体のプロセスを自動化することが可能になります。
3. The Taskforce-すぐに使えるGoogle製の「既製エージェント群」
「The Task Force」とも呼ばれるこのコンポーネントは、導入初日からすぐに価値を提供できるよう、Googleが専門的なタスク向けに開発した事前構築済みのAIエージェント群です。
これには、高度な市場調査を行う「ディープリサーチ」、膨大なデータから洞察を引き出す「データインサイト」、そして開発者を支援する「コーディングエージェント」などが含まれます。
ユーザーはこれらの既製エージェントを活用するだけでなく、自社で開発した独自のエージェントや、パートナー企業が提供するエージェントを簡単に追加することも可能です。
4. The Context-企業データ連携による「コンテキスト理解」
「The Context」とも呼ばれるこのコンポーネントは、AIエージェントが賢く自律的に動作するための「コンテキスト(文脈)」を、企業データと接続することで提供します。
Gemini Enterpriseは、データがどこに存在していても直接接続することが可能です。接続先には、Google WorkspaceやMicrosoft 365、SalesforceといったSaaSはもちろん、OracleやSAP、Slack、ServiceNow、Jira、BigQueryなど、多岐にわたるビジネスアプリケーションやデータベースが含まれます。
さらに、ユーザーが普段どの情報源を使い、誰と協業しているかといった個人的な文脈を記憶するパーソナライゼーション機能も組み込まれているため、AIがより的確な回答やアクションを実行できるようになります。
5. Governance and Security-エンタープライズグレードの強固なセキュリティとガバナンス
「Governance and Security」とも呼ばれるこのコンポーネントは、企業がAIを安心して利用するための、強固なセキュリティと統制機能を提供します。
Gemini Enterpriseでは、プラットフォーム上で利用されるすべてのAIエージェントを一元的に可視化し、保護、監査、統制することが可能です。
ユーザーのデータ(プロンプトや出力)がGoogleのモデル開発・トレーニングに使用されることはなく、データの所有権は常にユーザーにあります。また、米国政府のIL5認可をはじめ、各国の主権要件や業界のコンプライアンス基準にも適合しており、エンタープライズ利用に求められる高度なセキュリティレベルを担保しています。
6. Partner Ecosystem-オープンなエコシステムと標準プロトコル
「The Partner Ecosystem」とも呼ばれるこのコンポーネントは、Gemini Enterpriseが単独で完結するのではなく、広範なパートナーネットワークと共に成長していくことを示すものです。
このプラットフォームには、エコシステムパートナーによって構築・公開されたAIエージェントを発見できる「エージェントマーケットプレイス」が含まれています。これにより、企業は既存のテクノロジーとGemini Enterpriseを相互に連携させ、よりスマートなビジネス成果を推進できます。
また、Googleはエージェント間の通信を可能にする「Agent2Agent Protocol (A2A)」のようなオープンな標準プロトコルの策定も業界と協力して進めており、プラットフォームの将来的な拡張性を担保しています。
Gemini Enterpriseと連携するGoogle Workspaceの主な新機能
Gemini Enterpriseという大きなプラットフォームの登場とは別に、多くのユーザーが日常的に利用しているGoogle Workspaceの各アプリケーションにも、AIによる強力な機能強化が発表されています。
これらはGemini Enterpriseと連携し、私たちの働き方をさらにスマートにしてくれるものです。ここでは、その中でも特に注目すべき新機能をご紹介します。
AI動画作成ツール「Google Vids」
「Google Vids」は、AIを活用した新しい動画作成アプリケーションです。
公式ブログによると、「Google Vidsを使えば、プレゼンテーションなどの情報を、AIが自動生成するスクリプトとナレーション付きの魅力的な動画という全く異なるフォーマットに変換できます」と説明されています。
専門的な動画編集スキルは一切不要で、プロジェクトの進捗報告や研修用の教材、マーケティング用のショート動画などを、誰でも手軽に作成できるのが大きな特徴です。すでに毎月250万人が利用するなど、驚異的な勢いで成長を続けています。
「Google Meet」のリアルタイム音声翻訳
Google Meetでは、すべてのビジネスユーザーを対象に、リアルタイムでの音声翻訳機能が提供されます。
これは単なる言葉の置き換えにとどまりません。話者の自然な口調や表現までを捉えることで、使用言語が異なる参加者同士でも、まるで母国語で話しているかのようなシームレスな会話を実現します。
この高度な機能は、今年初めから利用が13倍以上に増加している「メモの自動作成(take notes for me)」機能で培われた、Googleの音声インテリジェンスを基盤としています。
Gemini Enterpriseの料金プランとエディション
Gemini Enterpriseには、組織の規模とニーズに合わせて柔軟に選択できるよう、複数のエディションが用意されています。それぞれの特徴を理解し、自社に最適なプランを見つけましょう。
Gemini Business(中小企業・チーム向け)
中小企業や組織内の各チームでの利用を想定したエディションです。専門のIT担当者による設定が不要で、手軽に導入できる点が特徴です。
最大300シート(ユーザー)まで利用可能で、価格は年額プランの場合、1ユーザーあたり月額20ドルから提供されます。
Gemini Enterprise Standard / Plus(大企業向け)
エンタープライズグレードのIT制御を必要とする大企業向けのプランです。「Standard」と「Plus」の2つのエディションが用意されており、シート(ユーザー)数に制限はなく、大規模な組織での利用に適しています。
価格は年額プランの場合、1ユーザーあたり月額30ドルから提供されます。
このエディションには、Business版の全機能に加え、より多くの処理を実行できる高いクォータ、開発者向けの専門エージェント「Gemini Code Assist Standard」、そしてVPC-SCやCMEKといった高度なセキュリティ・ガバナンス機能が含まれています。
【部門別】Gemini Enterpriseの具体的な活用シナリオ
Gemini Enterpriseは、特定の部門だけでなく、企業のあらゆる業務領域でその価値を発揮します。ここでは、具体的な活用シナリオを部門別に見ていくことで、Gemini Enterpriseが日々の業務をどのように変革する可能性を秘めているのか、考えられるユースケースをみていきましょう。
マーケティング部門
マーケティング部門では、グローバルな市場トレンドの即時分析や、ターゲット顧客に合わせたキャンペーンコンテンツ、クリエイティブアセットの生成をAIが支援します。
また、複数のチャネルにわたるパフォーマンスレポートの作成を自動化したり、既存のマーケティングツール群(Martechスタック)と連携してワークフローを効率化したりするなど、戦略立案から実行、分析までの一連のプロセスを高速化します。
セールス部門
セールス部門では、営業担当者が日々の煩雑な業務から解放され、より戦略的な販売活動に集中できるよう支援します。
AIエージェントが、顧客に関する深い情報(アカウントインテリジェンス)を自動で収集・分析し、個々の顧客に合わせたアプローチをパーソナライズ。さらに、複雑な取引の成約予測やパイプライン管理を自動化し、「次に取るべき最適なアクション」をAIが推奨することで、営業成果の最大化に貢献します。
エンジニアリング部門
エンジニアリング部門では、アプリケーション開発のスピードと品質を飛躍的に向上させます。
AIエージェントが高品質なコードを生成したり、既存のレガシーシステムの最適化を支援したりするだけでなく、開発ワークフローにおけるテストやコード分析の自動化も実現。CI/CDパイプラインに直接AIを統合することで、開発プロセス全体の効率化に貢献します。
人事(HR)部門
人事部門では、候補者体験の向上や新入社員のオンボーディングといったプロセスの効率化をAIエージェントが支援します。
また、従業員の感情(センチメント)を分析し、将来の人材計画のためのスキルギャップを特定するなど、戦略的な人事施策の立案にも貢献。一般的な人事関連の質問にはGeminiチャットが24時間体制で対応し、人事担当者の負担を軽減します。
ファイナンス部門
ファイナンス部門では、グローバルな連結決算や予算のモデリングといった、複雑で時間のかかる財務プロセスを自動化します。
AIエージェントが企業の財務データを一元的に可視化し、迅速な意思決定を支援。また、厳格なコンプライアンス要件内で業務が遂行されるようガバナンスを強化するなど、財務の正確性と効率性を両立させます。
まとめ
本記事では、Google Cloudが発表した新プラットフォーム「Gemini Enterprise」の全貌を、その中核機能から料金体系、部門別の活用シナリオに至るまで網羅的に解説しました。
Gemini Enterpriseの登場は、AIが単なる「アシスタント」から、企業の「中核業務を担う実行者(エージェント)」へと進化する、大きな転換点を示しています。
専門知識の有無にかかわらず、すべての従業員が自らの手で業務を自動化し、生産性を飛躍的に向上させる。Gemini Enterpriseは、そんな未来を実現するための強力な基盤となるでしょう。これは、全従業員を「業務自動化の担い手」に変える、新しい時代の幕開けと言えるのかもしれません。
※この記事は迅速な情報提供を重視し、速報として掲載しております。もし記事内に誤りがございましたら、後日訂正いたします。