【研修事例】生成AIで新卒エンジニアを即戦力化する育成プログラムとは?AIネイティブ世代の育て方

【研修事例】生成AIで新卒エンジニアを即戦力化する育成プログラムとは?AIネイティブ世代の育て方

クラウドエース 技術本部の齋田です。

企業の未来を担う新入社員。彼らをいかにして早期に育成し、第一線で活躍する「即戦力」へと導くか。そして彼らとともに、どのように生成AIと協働し、本質的なエンジニアリングに向き合うか。これは多くの企業が抱える課題だと思います。

その課題に向き合うために、当社では「生成AI の活用」を取り入れた新卒研修を導入しました。本記事では、新入社員たちが短期間で「生成AI ネイティブ」として成長した研修の様子をお届けします。

クラウドエースが実践する「生成AI新卒研修」の3ステップ

今年度の新卒研修は、3つのステップで実施されました。社会人としての土台を築き、技術者としての専門性を高め、実践の場で価値を発揮するための体系的なプログラムです。

Step 1 (4月):社会人としての土台を築く人事研修

ビジネスマナーや会社の理念など、社会人としての基礎を学びます。同期との絆を深め、チームで働くことの重要性を理解する期間です。

Step 2 (5〜6月):生成AI活用を学ぶ技術本部研修

技術本部では、土台となる基礎知識の習得は勿論、「開発プロセスやシステムの全体像を把握する」ことをテーマに研修を実施しました。

5 月(基礎的な技術研修)
IT の基礎理論からプログラミングの初歩まで、技術者として必須となる土台を固めます。

6 月(実践的な開発研修)
「生成AI を活用したWebアプリケーション開発」を体験します。

Step 3 (7月):実践の場となる各部署へ配属

研修で得た知識とスキルを活かし、実際のプロジェクトに参加します。

研修ハイライト:生成AIを“開発パートナー”としたWebアプリ開発

実施した研修の中でも、6 月は新入社員がチームとなってアプリケーションを企画・開発するプロジェクトを実施しました。特徴は、Gemini や Cursor といった生成AI ツールを「思考の壁打ち相手」や「開発のパートナー」として活用した点です。

AIの言いなりでなく「使い手」になるための実践具体例

研修開始当初、新入社員の多くは生成AI に対して「便利な検索ツールの延長」といった程度の認識でした。しかし、研修が進むにつれてその認識は変化していきます。

研修で直面した課題:AI との向き合い方を学ぶ

研修は決して順風満帆ではありませんでした。私たちが直面したのは、現代の 生成AI 活用における本質的な課題でした。

「認知を超えてコードを作っていく AI」 ── 生成AI は、新入社員の理解を超えた複雑なコードを瞬時に生成します。一見素晴らしい解決策に見えるコードが、実は理解不能な「ブラックボックス」になることもありました。

「わからないまま AI の出した答えを受け入れてしまう開発者」 ── 便利さの裏で、新入社員が AI の出力を盲目的に受け入れてしまう場面も見受けられました。「動くからいい」という思考に陥り、根本的な理解が置き去りになる危険性が浮き彫りになりました。

「それらをフォローするメンターの対応」 ── 私たち指導者も、従来のやり方では対応しきれない新しい課題に直面しました。AI が生成したコードの品質を評価し、新入社員の理解度を適切に把握することの難しさを痛感しました。

「生成AI の言いなり」にならないために:自律的思考の重要性

これらの課題を見越し、私たちは研修のテーマを 「昨日の自分より強くなろう」 と定めていました。生成AI を便利なツールとして活用しながらも、決して「AI の言いなり」にならず、自分自身の思考力と判断力を磨き続けることの重要性を強調しました。

具体的には以下のような取り組みを行いました。

AI の出力に対する「なぜ?」の習慣化
生成されたコードに対して「なぜこの実装なのか」「他にどんな方法があるか」を常に問いかける

段階的理解の促進
複雑なコードを一度に受け入れるのではなく、認知を超えないように、小さな単位に分解して理解を深める

講師やメンターからのフィードバック
講師やメンターからのフィードバックを適宜受けられるような体制をつくり、いつでも相談できる状態にする

これらの取り組みの結果、まずは自分で生成AI に投げかけ、わからない部分は壁打ちを行うなど、基本的な姿勢を身につけることができました。

こういった体制のもと、システムや開発プロセスの全体感を掴むためのコンテンツを用意し、取り組んでもらいました。

要件の壁打ち(with Gemini)

「考えられるリスクは何か」、「機能要件、非機能要件はどう整理されるか」といった問いを Gemini に投げかけると、プロンプトにもよりますが、かなり整理された内容が提示されます。これにより、新入社員は一人で悩む時間を短縮し、本質的な議論に集中することができました。

以下は、架空の議事録(Google Document)を Gemini に整理させ、曖昧な箇所を整理させてみた例です。

プロンプト

あなたはシステム開発を行うシステムエンジニアです。映画チケット予約システムのプロジェクトを成功させるのが仕事です。見積を行う前提で、リスクが大きそうな箇所や、不確実性の高い箇所をピックアップして、M社に確認したいと思っています。まずは、添付した議事録を読み込み、曖昧な箇所やリスクの大きそうな箇所を20件整理し、Markdownの表形式で出力してください。

Gemini の画面

コーディングの高速化(with Cursor)

設計ドキュメントの編集や、アプリケーションコードの実装については、 AI コード支援ツールである Cursor を活用しました。

「この画面を実装するための Next.js コードを書いて」、「このコードをリファクタリングして」などと指示することで、コードが生成されていきます。新入社員からは「どんどん動くものが出来上がっていって楽しい」という声もあがりました。

以下は、Gemini 等を使って整理した要件から、検証するべき優先的なユースケースを整理し、Cursor にモックを作らせました。

ここではフィードバックをもらうことがゴールなので、一連のユースケースが完成し、動くことができたら OK としました。

ただし、開発者の意図しない外部サービスと接続しようとするケースもあるため、このあたりのチェックは必須でした。

ドキュメンテーションやテスト

社内の標準テンプレートのフォーマットに従い、基本設計書やテスト設計書も AI を活用しながら作成しました。Markdown を経由して、Google Document でインポートすれば、最初から整ったレイアウトで作成することができます。

テスト設計やコードをベースに単体テストコードを作成することも試しました。テストカバレッジを向上させながら、テストコードを作っていくという過程を体験することができました。

エラー解決とデプロイ

開発にエラーはつきものです。彼らはエラーメッセージを Cursor の AI Agent に投げかけ、原因と解決策を特定しました。また、アプリケーションを Google Cloud にデプロイする際も、手順を AI に聞きながら進め、全員がアプリケーションを公開できました。

この研修を通じて、新入社員は単にコードを書くスキルだけでなく、「生成AI を効率的に活用する力」という現代のエンジニアに必要な能力を身につけました。AI をうまく活用し開発スピードを大幅に向上させ、その分浮いた時間をより高次の思考や設計に集中できるようになりました。この「AI との協働スタイル」こそが、確実に「昨日の自分より強く」なっていく彼らの成長の源泉となっています。

研修の成果と未来への展望

研修の内容を振り返ると、「このツールを使えば、こういう部分はうまくいったかも」、「事前にこういったことをやっておけば、もっと有意義になったかも」など、色々なアイデアがまだまだ出てきます。

それでも、研修の最終発表会で彼らが披露したアプリケーションは、従来の研修の成果物と比較しても、かなり面白いものに仕上がっていました。今回は追加開発の内容をチームに委ねた結果、「統一的なデザイン」、「管理者機能などの拡充」、「魅力的な機能の追加」、「CI/CD の整備」など、チームごとにバリエーション豊かな結果を残してくれました。これらの成果を見た他の社員の方々からも驚きの声が上がりました。

何より大きな成果は、彼らが 「生成AI を自然に活用する力」 を身につけたことです。従来では時間をかけて調べていた技術的な疑問を、AI との対話によって瞬時に解決し、その結果をベースに迅速に実装を進める能力を獲得しました。

配属後の活躍:「生成AI ネイティブ」として

7 月に配属された彼らは、研修で培った能力を存分に発揮しています。従来は時間をかけていた調査業務を 生成AI で効率化し、開発で行き詰まった際も AI を活用して素早く解決策を見つけ出しています。

彼らのようなAIネイティブなエンジニアが、お客様のプロジェクトにアサインされることで、従来よりも迅速な課題発見と、スピーディなプロトタイピングが可能になります。これにより、お客様のビジネスアイデアを最速で形にするご支援ができます。

素晴らしいプロダクトを作るには、専門的な観点も不可欠ですが、そのうえで、「AI ファースト」で本当に望まれているシステムを作れることが、現代のエンジニアに求められる新しいスキルなのかもしれません。

研修を受けた新卒の声

今回の研修を通して、参加した新卒社員はどのように感じ、成長したのでしょうか。
研修の体験や率直な感想を、新卒社員自身の視点で綴った記事も公開しています。

比較的簡単に画面を作れた経験から、Google Cloud へのデプロイ時の苦労、チームの役割分担での失敗、報連相で指摘を受けたリアルな話などを書いてくれています。
ぜひ合わせてご覧ください。

▼新卒社員の記事はこちらから▼
新卒研修で挑戦した生成AIの活用と映画館アプリ開発

おわりに:AI 時代の人材育成への示唆

今回の研修は、AI 時代における人材育成の新たな可能性を示すと同時に、その課題も浮き彫りにしました。「認知を超えてコードを作っていく AI」「わからないまま AI の出した答えを受け入れてしまう開発者」「それらをフォローするメンターの対応」── これらの課題は、おそらく多くの企業が直面するものでしょう。

しかし、「昨日の自分より強くなろう」というテーマのもと、新入社員たちは 生成AI に頼りつつも、彼ら自身の成長を実現しました。彼らの姿は、当社の人材育成における重要な転換点となりました。

彼ら「生成AI ネイティブ」なメンバーと共に、変化する時代の要求に応え、お客様の新規事業開発やサービス改善のプロジェクトにおいても、これまで以上のスピードと柔軟性を提供します。

今後とも、「AI と協働し、関わった方々に感動体験を与える集団」として挑み続けるクラウドエースをよろしくお願いいたします。

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