【速報】Next Tokyo ’25 Day 2セッションレポート:freeeが目指す生成AI時代のデータプラットフォーム戦略

こんにちは、クラウドエースDevSecOps事業部の安田です。

2025年8月7日、Google Cloudのカンファレンスイベント「Google Cloud Next Tokyo ’25」DAY 2が開催されました。

今回は、Google Cloud Next Tokyo ’25 DAY 2の注目のブレイクアウトセッション「freeeが目指す生成AI時代に向けた次世代データプラットフォームとガバナンス」の内容をご紹介します。

このセッションでは、freeeが取り組む次世代データプラットフォームの構築について、生成AIの台頭によるデータ活用の変化、データメッシュアーキテクチャの実現、そしてGoogle Cloudを活用した具体的な実装について詳しく解説されました。

freeeの事業概要

まず、freeeの事業について紹介されました。

freeeは「スモールビジネスを世界の主役に」というミッションのもと、統合型経営プラットフォームを提供していることが説明されました。会計・人事労務・販売管理を核としたSaaSサービスで、バックオフィス業務の分断をなくし、統合体験を構築することを目指しているとのことです。

主要製品として、日本のクラウド会計ソフト市場シェアNo.1の「freee会計」、スモールビジネスの人事管理市場売上金額シェアNo.1の「freee人事労務」、そして国内初のクラウド会計ソフトと一体型販売管理サービス「freee販売」を展開していることが紹介されました。

生成AIがもたらしたデータ活用の変化

従来のデータ活用では、データエンジニア、アナリスト、データサイエンティストなどの専門家が関与してユースケースを実現していました。しかし、生成AIの誕生により、非専門家が直接ユースケースを実現できる環境が整ってきたと述べられました。

生成AIは専門性のハードルを下げ、非専門家でもデータ活用が可能になる時代へと変化していることが示されました。ただし、そのためには企業内の機密情報とナレッジを分断なく蓄積することが重要になることが強調されました。

生成AIを最大限活用するための条件

生成AIを最大限活用するためには、以下の 4 つのデータカテゴリを統合する必要があります。

  • プロダクト/サービス:事業・サービスデータ、サポートデータ、ご意見、売上データ
  • ビジネスデータ:顧客データ、商談データ、マーケティングデータ
  • 社内データ:社内オペレーションデータ、ナレッジ・非構造、財務データ、人事データ
  • マルチモーダル:画像、動画、音声

個社ごとのビジネスロジックを反映させたデータモデル/セマンティクスを整備することが重要であることが強調されました。

政府の動向とfreeeの取り組み

続いて、政府の動向とfreeeの具体的なAI活用事例について紹介されました。

経済産業省のデジタル経済レポートでは「聖域なきデジタル市場では、すべての企業がソフトウェアカンパニーに、そしてデータカンパニーにそのモデルを変革しなければ生存は極めて難しい」と述べられており、データ戦略の重要性が政府レベルでも認識されています。

freeeでもAIトランスフォーメーションが始まっており、「つばめAuto」というサービスが社内に展開されています。営業商談の内容をデジタル化し、生成AIで判断させることで、入力コスト削減や課題抽出、レポート作成を自動化しているとのことです。この取り組みにより、「Forbes JAPAN NEW SALES OF THE YEAR 2025」で「AIトランスフォーメーション賞」を受賞したことが紹介されました。

freeeの現状と課題

freeeの現状を評価すると、データの統合についてはBigQueryへの統合が実施されており、ある程度クリアな状況です。しかし、データモデル・セマンティクスの整備は過渡期にあり、Rawデータの活用が中心となっているとのことです。

最も大きな課題は、統計データの利用が中心で、お客様のパーソナライズなどができず活用の幅に限界があることが指摘されました。

データメッシュアーキテクチャの実現

freeeが目指す理想的なデータ活用を実現するため、データメッシュアーキテクチャを採用しています。3つのフェーズに分離することで、セキュリティとガバナンスを担保しています。

  • データ統合フェーズ:プロダクトデータ、ビジネスデータ、社内データの統合
  • データ共有フェーズ:各データ資産の共有
  • データ活用フェーズ:分析、セールス・マーケティング、プロダクト、サポート、DX/オペレーション

 

コンテクスト分離により、プロダクト、ビジネス、社内・バックオフィスの各コンテクストで独立した開発と運用が可能になることが示されました。

Google Cloud上での実装

続いて、Google Cloudを活用した具体的な実装方法について詳しく説明されました。

freeeでは、Google Cloud上でデータメッシュアーキテクチャを実現しています。BigQuery Sharingを使用することで、データの物理コピーなしでの共有が可能になり、シングルリソースによるデータ共有を実現しているとのことです。

データガバナンスの要となるPolicyタグを導入し、カラムレベルでのアクセス制御を実現しています。これにより、管理者・分析者のみが機密情報にアクセスでき、一般ユーザーは機密情報がマスクされた状態でデータを参照できるとのことです。

Policyタグによるアクセスコントロール

Policyタグによる動的なアクセス制御により、アクセス権を持つユーザーはすべての情報を参照できますが、アクセス権を持たないユーザーは機密情報がNULL表示されるため、セキュリティが確保されています。

生成AIによるPolicyタグの自動分類

freeeでは1万5000のテーブル、80万を超えるカラムを管理しており、半年で数千カラムが増加する大規模環境であることが説明されました。人手でのPolicyタグ付けは非現実的であるため、生成AIによる自動分類に取り組んでいるとのことです。

Few-shot promptを使用し、Vertex AIのGemini 2.5 Flash-LiteとClaude 3.5 Haikuを活用して自動分類を実現していることが紹介されました。データ保存セキュリティルール、データ分類定義、評価対象データBigQueryを入力として、アセスメント結果を出力しているとのことです。

アセスメント結果には、カラム単位の生成AIによる判定スコア、データ分類の判定タグと理由、生成AIが自動的に作った安全なサンプル、そして自己整合と外部整合の評価が含まれることが説明されました。

セキュリティ専門家によるヒューマンインザループの運用を構想しており、専門家の確認後に自動的にPolicyタグを付与する仕組みを目指していることが紹介されました。

組織間データ共有の可能性

最後に、組織間でのデータ共有の可能性について展望が示されました。

freeeでは組織内でのシェアリングエコノミーを実現しているが、さらに組織外にもポテンシャルがあると考えていることが説明されました。BigQuery Sharingを活用した企業間データ交換・共有により、組織間のデータシェアによる共創が可能になることが示されました。

まとめ

生成AIによるメリットを得る企業の条件は、企業内の情報を分断なく統合できることが前提であることが強調されました。生成AIは専門家でなくても活用の裾野を広げるチャンスですが、一方でデータ・ナレッジ整備が大前提となり成否の分かれ目となることが示されました。

また、freeeでは、メッシュ型アーキテクチャを採用しており、その中核技術としてBigQuery SharingとPolicyタグを活用していることが説明されました。組織内で様々な利用部署間でシェアリングエコノミーを構築し、疎結合で自律可能な全体最適の仕組みと個別最適を実現しているとのことです。

このように、生成AI時代においては、データの利便性とガバナンスを両立させることが重要であり、適切なアーキテクチャと技術的実装により、安全で効率的なデータ活用が可能になると述べられました。

大規模なデータ環境での自動化とセキュリティの両立は多くの企業が直面する課題であり、freeeの事例は非常に参考になるものだと感じました。