2026/02/16 マスコミ・メディア日本テレビホールディングス株式会社AI・機械学習先端技術による事業イノベーション 「未来を生きる」AI活用へ。日本テレビが選んだ、マルチエージェントプラットフォームによるAIリスクと高度なセキュリティ要件の克服 ※本記事の取材者の肩書や発言内容は、取材当時(2025年12月)のものです。日本の民間放送局のパイオニアとして数々のヒットコンテンツを創出し続ける日本テレビホールディングス株式会社(以下、「日本テレビ」)は、中期経営計画における「コンテンツテクノロジー戦略」のもと、現在はコンテンツの企画制作を支援するAIエージェントの開発を積極的に推進しています。 そんな同社はAIエージェント活用の拡大に対し、セキュリティとガバナンスの設計を本格化。 本記事では、放送業界特有の業務要件・セキュリティ要件に対し、クラウドエースがどのように応えたのか。乱立するAIエージェントをゼロから作り直すことなく、後付け統制を実現した、その挑戦の軌跡をご紹介します。 (左から) 日本テレビホールディングス株式会社 経営戦略局 経営戦略部主任 (兼)経営戦略局 R&Dラボ主任 / 辻 理奈氏クラウドエース株式会社 取締役CTO / 高野 遼 CTO室 / 伊藤 翼 事業推進本部 / 森 菜摘拡大するAIエージェント活用と、全社ガバナンスの必要性現場には、AIエージェントがもたらす新しい可能性への期待が確かに広がっていました。ところが同時に、その広がり方が速いほど、統制の不在が将来のリスクになり得るという現実も見えてきます。日本テレビはこのタイミングで、活用を加速させるためにこそ、基盤側のガバナンスを先に整えるべきだと判断されました。しかし、その積極的なトライアルの裏側で、本プロジェクトを牽引する日本テレビの辻 理奈氏は、ある重大な危機感を抱えていました。 日本テレビホールディングス株式会社 / 辻 理奈氏「現場でAIエージェントが増えていくことは『現場に新しい働き方が浸透していく感じ』がする一方で、このまま全社的な連携も統制もなく個別最適に進めば、セキュリティやコンプライアンス面でいつか大きな問題を引き起こす可能性がある。そうなる前に、全社で利用するためのセキュリティ、認証認可、ネットワークガバナンスを確保しなければならないと考えていました」(辻氏)この最先端のAI活用とそこに潜むリスクに対し日本テレビが求めたのは、既存のAI資産を活かしつつ 、全てのAIエージェントを横断的に管理し、エンタープライズレベルのガバナンスを強制的に適用できる共通プラットフォームでした。「組織の責任分解」に対応するマルチエージェントの世界観 日本テレビが採用したのは、クラウドエースが提供する「CloudAce Agent Enterprise(以下、「CAE」)です。 CAEは、乱立する個別のAIエージェントをゼロから作り直すことなく、通信を中継するリバースプロキシという仕組みを利用することで、セキュリティやガバナンスを後付けで適用できるマルチエージェントプラットフォームです。リバースプロキシとは、CAEの特徴の一つで、ユーザーとAIの間に関所を設けるような仕組みです。すべての通信をこの関所で中継・監視することで、既存のAIエージェント自体を改造することなく、エンタープライズレベルの統制を「後付け」で適用することを可能にしました。日本テレビがCAEを選定された背景には、中期経営計画に記載された「マルチエージェントを活用した社内業務の効率化」という明確な目標と、辻氏が抱いた「社会実装に向けたエンタープライズレベルでの品質の担保への課題」があったそうです。この目標と課題に対し、クラウドエース 取締役CTOの高野 遼が描くマルチエージェントの世界観が辻氏に深く共鳴し、解決への糸口となりました。高野は当時の状況を振り返り、このように語っています。 クラウドエース株式会社 / 高野 遼「日本テレビ様の中期経営計画にある『マルチエージェント活用による業務効率化』を実現するためには、一つのAIが全てを代行する『神様のようなエージェント』を作るべきではありません。重要なのは、人間組織に対応する形でAIエージェントが各部門の責任範囲に基づいて役割分担をするというコンセプトです。AIが出した結果を正式な回答とするためには、人間のチェックと承認(Human-in-the-Loop)が絶対に欠かせないと、強くお伝えしました」(高野)※Human-in-the-Loop(HITL)とは: AIの処理プロセスの中に「人の判断」を組み込む仕組みのこと。AIが生成した内容を人間が確認・承認してから確定させることで、AIの「スピード」と、人による「正確性・責任担保」を両立させます。今回のプロジェクトにおいて特に重要視されたのは、放送局として求められる「役割分担」への対応でした。 放送コンテンツの制作現場では、情報の正確性、権利処理、考査(倫理チェック)など、一つの番組を世に出すまでに多層的な確認プロセスが存在します。AIエージェントの結果を利用する際も、これらの役割を担う適切な部門による事前のチェック(HITL)が欠かせません。高野は、このHITLの適用について、「組織内でのガバナンスだけでなく、番組制作における既存の指揮系統や責任体制を、AIの運用にも正しく適用させる観点でも重要である」と述べています。組織の責任体制の反映という、この極めて重要な要件に対し、CAEはリバースプロキシ機能による後付けガバナンスという手法で応えました。既存資産を活かす「リバースプロキシ」と、進化し続ける最先端技術への適応日テレのAIガバナンスを実現する道のりは、決して平坦ではありませんでした。そこには、進化の速い最先端技術とセキュリティ含めた品質の担保という、二つの大きな壁が立ちはだかっていたからです。クラウドエースは、CAEの中核技術である「リバースプロキシ」を駆使し、この難題に一つひとつ向き合っていきました。1.仕様が変わり続ける領域で、正解を導き出すための「率直な対話」CAEの基盤には Google発の最新AI技術が活用されています。しかし、前例の少ない最先端技術を実際のプロダクトとして提供する上では、マニュアル通りにはいかない判断の難しい局面が多々ありました。技術的な正解が見えにくい中で、プロジェクトを前進させる鍵となったのは、開発チーム同士の密なコミュニケーションでした。この点について、担当者の辻氏は、クラウドエースの「技術的なカバー範囲の広さ」と「伴走姿勢」を高く評価しています。「最先端技術だからこそ、単にツールを使うだけでは解決できない課題や、判断に迷うポイントが多くありました。その際、クラウドエースさんは特定の技術に限らず、周辺技術も含めて広くカバーしてくれました. 何より、開発メンバーの方が私たちと同じ目線で率直に議論し、一緒に悩みながら解決策を提示してくれたことが、アジリティの高さや品質につながったと思います。」(辻氏)これを受けて、クラウドエース CTO室の伊藤 翼は、最新技術をプロジェクトに適用していく上での、自社の役割についてこう振り返ります。 クラウドエース株式会社 / 伊藤 翼「本件のように最先端の技術を導入する場合、何が正解かは誰にも分かりません。ドキュメントには書かれていない挙動や制約も多く、日本テレビ様だけで判断するのは困難だったと思います。 だからこそ、私たちは単に仕様を伝えるだけでなく、技術の裏側にあるロジックや周辺への影響まで深く検証することを徹底しました。『技術的に可能なこと』と『プロダクトとしてあるべき姿』のギャップを埋ーめ、自信を持って意思決定いただける材料を提示することが、私たちの役割だったと考えています」(伊藤)2.「後付け」統制の最大の壁:カスタムHITLとA2Aプロトコルの棲み分け技術的な難所の核心は、CAEの実装において、AI同士が会話する「A2A(Agent to Agent)プロトコル」と、人間が介入する「独自のHITL処理」をどう共存させるかにありました。「技術的に最も工夫し、苦労した点は、A2Aプロトコルを深く理解し、その上で独自のHITL処理を挟み込むことでした。A2Aプロトコル自体にもHITLとなるような状態の定義があるのですが、これと我々が実装したい、より柔軟なカスタムHITLとの棲み分けが非常に難しかったです」(伊藤)3.ソースコード提供による完全なオーダーメイド対応さらに特筆すべきは、日本テレビの社内規定や認証要件に対応できた提供形態です。 一般的なSaaS型(ブラックボックス型)とは異なり、CAEはソースコードライセンスを提供しつつ、お客様ごとにオーダーメイドで構築を行うプロダクトです。この柔軟な提供形態により、日本テレビ向けの要件に対応する追加の改修が可能となりました。また、実装フェーズではA2Aのプロトコルの壁にも直面しました。「Google CloudのAgent EngineはA2Aを利用する場合はHTTP+JSON/RESTの対応が必要でしたが、一部のライブラリはJSON-RPCしか対応していないなど、利用するライブラリによって利用できるプロトコルが異なるという問題がありました。このあたりの整合性を取るのにも苦労しました」(伊藤)クラウドエースは、これら複雑なプロトコル間の整合性を約2〜3週間という短期間で確立しました。継続的な微調整も行っており、オーダーメイド対応の良さを十二分に発揮しています。創出する価値と展望—AIエージェント展開の下地が完成厳しい技術的要件と組織的な課題を克服したことで、日本テレビは今、AI活用における新たなステージに立っています。クラウドエースが構築したのは、単なるシステムではなく、「コンテンツテクノロジー戦略」を確実に推進するための堅牢な基盤です。「AIがリソース不足解消の一端を担うことで、よりヒトがクリエイティブなことに集中できるようになります。素案はAIが作り上げたとしても、結局はヒトでしか届けられないコンテンツに価値があり、よりその本質に注力できると思います」(辻氏)CAEが提供する強固なガバナンス基盤は、セキュリティリスクをシステム側で担保することで、クリエイターが安心してヒトにしかできない思考と創造に集中できる環境を実現しました。さらにその先に見据えるのは、CAEの中核機能の一つである A2A(Agent to Agent Protocol)を介した、複数のエージェントが協調動作する未来です。自律的なマルチエージェントシステムの本格稼働により、日本テレビはAIによる業務効率化の最大化を図り、中期経営計画で掲げる「ヒットコンテンツの再現性向上」という、競争優位性の源泉を盤石なものにしていく方針です。CAEがもたらしたガバナンス基盤は、その未来を実現するための極めて重要な一歩となることでしょう。今回のプロジェクトを受け、クラウドエース 事業推進本部の森 菜摘はこう締めくくります。 クラウドエース株式会社 / 森 菜摘「日本テレビ様はAIエージェント活用を積極的に進め、最先端の技術に対し常にアンテナを張られているお客様です。弊社としても、その熱量に応えるべく、最先端の技術を一緒に追い求め、挑戦を続けていけるといいなというふうに思います。引き続きよろしくお願いいたします」(森)クラウドエースは、今後も技術の力で日テレの挑戦を支え、放送業界におけるAI活用の新たな可能性を共に切り拓いてまいります。利用したサービスAgent Enterprise(CloudAce Agent Enterprise)各社の要件に応じてカスタマイズしたAIプラットフォームを提供するクラウドエースのサービス。組織全体の業務を最適化する「マルチエージェントシステム」、AIと人間の協調作業を円滑にする「承認基盤」など、企業ごとの業務環境に最適化された統合プラットフォームを柔軟に構築いたします。この記事を共有する