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高島株式会社
高島株式会社が選んだ、AI チャットアプリ内製化への挑戦
RAK ファーストユーザーが示した生成 AI 導入の新しいかたちとは
建材を中心とした専門商社として知られる高島株式会社。1915 年の創業以来、建材事業を主軸としながら、産業資材事業、電子・デバイス事業へと多角化を進め、ターゲット市場で顧客価値の追求を重視する「機能商社」として、高付加価値なソリューションを提供してきた。
その価値創造の姿勢はデジタル領域にも向けられ、2024 年、生成AI チャット アプリケーション開発の内製化という課題に真正面から取り組んだ。クラウドエースが提供する買い切り型生成 AI チャットボットキット「RAG Accelerator Kit」のファーストユーザーとして開発に参画し、自社の環境に最適化された生成AI活用の新たな形を追求。その背景には、新技術へ積極的にチャレンジするという同社ならではの企業文化があった。
高島株式会社 経営管理本部 総務・人事統括部 人材開発ユニット 岸 美香氏
高島株式会社 経営管理本部 IT統括部 ITソリューションユニット 竹内 秀彦氏
高島株式会社 経営管理本部 IT統括部長 岡島 敦海氏
クラウドエース株式会社 事業推進本部/第三事業部 サブリーダー 岡田 壮司
クラウドエース株式会社 技術本部 コンサルティング部 小坂 享司
「まずは試してみる」をモットーに、デジタル変革に取り組む高島
機能商社として顧客価値を追求し続ける高島。その革新への意欲は自社のデジタル変革においても際立っている。高島の IT統括部長を務める岡島 敦海氏は、今回の取り組みについてこう語る。
「生成 AI の取り組み以前にも、AI チャットボットや RPA など、新しい技術が出てくると積極的に試してきました。以前導入した AI チャットボットは、質問と回答のセットを事前に用意する必要があり、メンテナンスの負担が課題となっていました。そういった経験も踏まえ、生成 AI については 2024 年 5 月に社内で Gemini の研究会を立ち上げ、営業も含めたメンバーで活用方法を検討していました」(岡島氏)
同社では、10 年以上前から基幹システムの内製開発を行うなど、新しい技術を進んで取り入れる文化が根付いていた。IT統括部で業務アプリケーション開発やデータ連携基盤の保守を担当する竹内 秀彦氏も「最近ではローコード、ノーコードの環境も整い、開発の幅が広がっています」と話す。
“RAK”という新たな選択肢で、開発時のコストと自由度の壁を超える
生成AI活用の検討を進める過程で、同社では Google Cloud の Vertex AI Search を用いた社内情報検索の検証も行っており、「RAG の精度の高さを実感していました」と岡島氏は述べる。
SaaS 型のサービス導入も検討したというが、単体で約 200 名、グループ連結で約 1000 名の従業員を抱える同社では、月額コストが課題となった。岡島氏は「1 ユーザーあたり月額 3000 円程度かかり、全社導入すると月額 300 万円規模になってしまいます。使用頻度の低いユーザーもいるなかで、この金額は現実的ではありませんでした」と当時を振り返る。
そんな折、以前から Google Cloud の導入支援を受けていたクラウドエースから「RAG Accelerator Kit(以下、RAK)」の提案を受けた。
RAK は、生成 AI チャットアプリケーションを迅速かつ低コストで導入できる、Google Cloud の技術を活用したソリューションだ。その最大の特長は、ソースコードごと提供される買い切り型のライセンスモデルを採用している点にある。初期費用以外のランニングコストは、Google Cloud の利用料のほか、Gemini や ChatGPT など生成 AI の API 利用料のみとなる。
また、ソースコード自体を提供する形式を取ることによって、企業独自のカスタマイズが可能になるだけでなく、セキュリティ面でも大きな利点が生まれる。投稿内容が SaaS 事業者の学習データとして利用されることがなく、すべてのデータを自社環境で管理できるため、情報流出のリスクを最小限に抑えられるのだ。
さらに、非公開情報を活用した回答生成(RAG)機能が標準装備されており、AI が回答を生成する際、関連する社内ドキュメントやデータベースをリアルタイムで参照し、より正確かつ最新の情報が提供される。
クラウドエースの技術本部 小坂 享司は、RAK 開発の背景について「これまで多くの企業様から社内向け生成 AI チャットの開発相談を受けてきましたが、一からの開発ではコストが見合いません。そこで基本機能を標準装備したサービスとして提供することで、導入コストを抑えつつ、各社のニーズに応える形を目指しました」と説明する。
ユーザー目線でつくり上げる、理想のチャットボット
高島が RAK のファーストユーザーに選ばれた理由について、小坂はこう語る。
「他社とも協議していましたが、高島様は開発に対する理解が深く、率直に的確なフィードバックをいただけそうだと感じました。実際、竹内さんの徹底的な動作確認には開発チーム一同が驚きました。『ここまで確認するの?』と何度も話題になったほどです。そのおかげもあって、サービスの完成度は大きく向上しました」(小坂)
開発は 2024 年 5 月半ばから約 4 カ月をかけて進められた。当初クラウドエース側は 3 名体制でスタートしたが、高島からの要望に応えるため、一時は 6 名まで増強。特に UI/UX の改善や、Google グループとの連携機能など、実際の利用を想定した機能強化が図られた。
竹内氏は開発プロセスについて、印象的なエピソードを交えながら次のように振り返る。
「毎週定例会を設け、見つかった課題や改善点について議論しました。チャットでのやり取りも含め、クラウドエースの対応は迅速で、技術的な提案も的確でした。特に印象的だったのは、マルチモーダル機能の追加です。当初は想定していなかった機能でしたが、動画からの議事録作成などの用途を考慮して実装していただきました」(竹内氏)
RAK の特長の一つが、LLM を併用できる点だ。この決定について小坂は「開発当初、テキスト解析では GPT-4 の方が優れており、一方で Gemini はマルチモーダル機能や低コストが強みでした。将来的なモデルの進化も見据え、1 つのモデルに限定しない設計を選びました」と明かす。
ヒヨコからニワトリへ、愛されるチャットアプリ「TemTem」の誕生
完成した高島の生成 AI チャットアプリは「TemTem」と名付けられた。その名前の由来は、以前のチャットボット「Temくん」がモチーフ。アプリのアイコンについては、「Temくんがヒヨコだったので、進化を遂げた TemTem はニワトリになりました」と岡島氏は愛着を込めて話す。興味深いことに、TemTem のアイコンは Gemini を使って生成され、社内投票で選ばれたという。技術検証の成果が、思わぬ形でアプリの個性づくりにも貢献している。
現在は、約 300 名の従業員のうち 100 名超が利用を開始し、従業員の ⅕ 程度がヘビーユーザーとなっているという。なお、こうした利用状況は Google の Looker Studio を活用して RAK に標準装備された分析機能でグラフィックとして可視化することができ、管理者は利用回数やトークン数、やりとりの履歴などを確認できる。
TemTem の利用シーンは多岐にわたる。高島の人材開発部門で新卒採用を担当する岸氏は、実際の活用例を次のように紹介する。
「採用説明会の構成を考えたり、高島の魅力を伝えるための資料作成に活用しています。過去の会社の情報が蓄積されているので、ほかの従業員に確認するよりも素早く情報が得られて助かります。また、内定者研修用のクイズ作成など、アイデア出しにも役立っています」(岸氏)
ほかにも、文章要約やメール作成支援、さらには新規事業開発でのブレイン ストーミングなど、用途は徐々に広がっているという。TemTem の利用促進に向けて、同社では Google Chat や Sites を通じて活用事例を定期的に発信している。岡島氏は「一度使ってもらえれば良さを実感してもらえると思っています。そのきっかけづくりとして、継続的な情報発信は重要です」と話す。
データ活用との融合、進化を続けるDXの歩み
高島では、グループ会社への展開も視野に入れているといい、岡島氏は今後についてこう語る。
「グループ会社には製造業や建設業もあり、それぞれの業態に合わせた新しい活用方法が見つかるのではないかと期待しています。また、BigQuery にデータが蓄積されているので、BI ツールとの連携など、データ分析分野での Google Cloud 活用も検討していきたいと考えています」(岡島氏)
クラウドエースの事業推進本部 岡田 壮司も、高島のデータ活用への意欲的な姿勢を評する。
「以前から SQL を扱える人材の育成についてご相談いただいており、Looker Studio の活用や Google Cloud のセミナー参加など、着実に取り組みを進めていただいています。今後は生成AI活用に加えて、データを扱えるエンジニアの育成支援など、より広い視点でのご支援を行いたいと考えています」(岡田)
高島の取り組みには、技術検証から実用化へと着実に歩を進める姿勢が表れている。新技術への果敢なチャレンジと、それを支える内製化の文化。この組み合わせが、同社の DX を確実に前進させているようだ。
※Google Cloud および Google Cloud 製品・サービス名称は Google LLC の商標です。
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