2026/05/27 公共 徳島県庁 インフラ構築・移行 事業成長を支える基盤刷新 自治体DX・ゼロトラスト:徳島県庁がGoogle Cloudで挑んだ5,000人規模の基盤刷新 クラウド活用は、「導入すれば便利になる」という単純な話ではありません。国が定める三層分離の要件、LGWAN(総合行政ネットワーク)、そして複雑に絡み合う既存システム──。5,000人規模の組織でこれらを刷新し、モダンなワークスタイルを実現するには、幾多の壁を越える必要がありました。 2025年、徳島県庁が挑んだのは、Chrome Enterprise Premium(CEP)とIdentity-Aware Proxy(IAP)を組み合わせた、ゼロトラスト環境の構築です。このミッションに対し、クラウドエース株式会社(以下「クラウドエース」)、吉積情報株式会社(以下「吉積情報」)、そしてテック情報株式会社(以下「テック情報」)は、技術パートナーとして強固な連携体制を敷き、その実現を支えました。 技術的に実現可能なのか。既存業務と両立できるのか。そして、自治体の運用として持続可能なのか……。本記事では、それぞれが一体となって導き出した、自治体DXにおける「最適解」へのプロセスを詳しく紹介します。 (左から) 徳島県庁 情報政策課 係長 / 阿利 政徳(あり・まさのり)氏 主任主事 / 櫛田 佳那(くしだ・かな)氏 主事 / 藤本 和伶(ふじもと・かずさ)氏 副課長 / 濵 誠司(はま・せいじ)氏 テック情報株式会社 事業本部 第3公共ソリューション部 / 庄野 和彦(しょうの・かずひこ)氏 事業本部 公共営業部 / 福山 真司(ふくやま・しんじ)氏 クラウドエース株式会社 技術本部 コンサルティング部 / 猪原 哲明 (いのはら・のりあき) 技術本部 第三開発部 / 廣瀬 隆博 (ひろせ・たかひろ) 事業推進本部 第三事業部 / 西東 公司(さいとう・こうじ) 1|場所を選ばない働き方のグランドデザイン。徳島県庁が下した次世代基盤への決断 徳島県庁が直面していたのは、多くの自治体が共通して抱える「レガシーシステム」と「働き方の制限」そして「セキュリティの確保」という大きな課題でした。 三層分離(マイナンバー利用事務系・LGWAN接続系・インターネット接続系)という厳格なネットワーク分離ルールを遵守しながら、いかにして約5,000人の職員が場所に縛られず、セキュアに業務を行える環境を構築するか。 この極めて難易度の高いミッションに対し、徳島県庁は単なるリモートアクセスの導入ではなく、Google Cloudを基盤とした包括的なゼロトラストモデルの採用を決定しました。 具体的には、Chrome Enterprise Premium(CEP)によるブラウザベースの高度なセキュリティ保護と、Identity-Aware Proxy(IAP)による認証・認可に基づいたセキュアなアクセス制御を組み合わせることで、従来のVPN接続に伴う煩雑さや脆弱性の解消を目指しました。 こうした構想を具現化するため、適正な選定のプロセスを経て、クラウドエース、吉積情報、テック情報の3社がパートナーとして選ばれ、徳島県庁を含む4組織によるプロジェクト体制が発足しました。単なるシステムの刷新ではない、徳島県の未来を支えるインフラの再定義に向けた取り組みが、ここから動き出しました。 2|三層分離の壁を越える。5,000人規模のメール移行と、ゼロトラスト実装への泥臭い挑戦 徳島県庁が主導するこの大規模プロジェクトを支えたのは、それぞれの専門領域を持つ各社の存在でした。 要件定義と意思決定の主体となる徳島県庁のもと、全体PMおよびセキュリティ・ネットワーク設計をクラウドエース、Google Workspaceの導入支援やトレーニングを吉積情報が担い、現地ネットワーク構築やデータ移行、オンプレミス環境の保守をテック情報が担当。 クラウドエースと吉積情報はグループ会社としてのシームレスな連携を活かし、Google Cloudの基盤構築からGoogle Workspaceの活用支援までを包括的にカバーする体制を整えつつ、そこに現地の運用を熟知するテック情報が加わることで、行政現場の要件に即した支援体制が構築されました。 プロジェクト初期における最大の課題は、庁内の複雑な閉域網(LGWAN)環境を完全に再現できる検証環境が、クラウドエースには存在しなかったことです。 自治体特有の閉域網(LGWAN)とクラウドを融合させるといった、自治体ならではのネットワーク要件を確かなものにするためには、実機での検証が不可欠でしたが、検討開始から運用開始まで約4〜5カ月という、大規模基盤の刷新としては極めてタイトなスケジュールも大きな制約でした。 そこで、ネットワーク設計を担当したクラウドエース 技術本部 第三開発部 廣瀬 隆博は、現地の運用に精通したテック情報と連携し、実環境に近いテストフィールドでの詳細な検証を急ピッチで敢行。この実機環境を用いたプロセスこそが、限られた時間の中で設計を現実に落とし込む鍵となったのです。 特に難所となったのが、既存のメール環境をいかに安全に維持しつつ、新しい仕組みへと移行するかという点です。マネージャーを務めたクラウドエース 技術本部 コンサルティング部の猪原哲明は、当時の設計思想を次のように語ります。 クラウドエース株式会社 技術本部 コンサルティング部 / 猪原 哲明 「メールを確実に届けるという当たり前の品質を担保した上で、経路内でのループ防止や外部からの不正利用対策までを網羅した強固な設計が求められました。自治体の厳しいセキュリティ要件を満たしつつ、実用性を損なわない構成を導き出すプロセスは、非常に緻密な検討を要するものでした」(猪原) 現場でこうした緻密な検証が繰り返されることで、当時の「不安」は「信頼」へと変わっていきました。 当時の状況について、徳島県庁 情報政策課 副課長の濵誠司氏は次のように振り返ります。 徳島県庁 情報政策課 副課長 / 濵 誠司氏 「当時は早期の成果が求められ、非常にタイトなスケジュールでした。通常であれば入念な事前検証を経て仕様を固めますが、今回はその余裕がなく、限られた情報と理論ベースで仕様を策定し、入札に踏み切るという、非常に難度が高くプレッシャーの大きい状況でした。 いざ構築フェーズに入り、その理論を実システムへ落とし込む際に頼りになったのがクラウドエースさんです。彼らの精緻な検証プロセスと丁寧なガイドによって、自治体特有の要件や機能制約をクリアし、私たちの本来の狙いを確実に形にできました。 思えば、この実践的で詳細な検証プロセスこそが、事前検証が十分にできず手探りで進めていた私の大きな不安を、確かな信頼へと変える鍵となりました。机上の設計を現実のシステムへと仕上げる過程において、これほど心強いパートナーはいませんでした。」(濵氏) 5,000人規模の刷新には、技術的な壁に加え、膨大な庁内調整も伴いました。特に、全てのシステムを一度にゼロトラスト環境へ移行することは現実的ではなく、一部のレガシーシステムについては個別の「例外対応」が求められました。 当時の苦労について、徳島県庁 情報政策課 主任主事の櫛田佳那氏は次のように明かします。 徳島県庁 情報政策課 主任主事 / 櫛田 佳那氏 「ゼロトラスト環境の導入に向けた設計や調整は、困難の連続でした。とりわけ苦労したのが、IAPが適用できないシステムの扱いです。セキュリティを担保しつつ、いかに実用的な例外対応に落とし込むか、何日もネットワーク構成図とにらめっこする日々が続きました。 独自の閉域網ルーティングを維持する特殊な経路を綿密に設計し、『技術的にセキュリティを担保できる』という確証を導き出して副課長のGOサインを得る。この一連のプロセスは、非常にシビアな判断を要するものでした」(櫛田氏) また、多数のシステムのIAP対応やメール移行という、最前線の調整を一手に担ったのが、徳島県庁 情報政策課 主事の藤本和伶氏です。 徳島県庁 情報政策課主事 / 藤本 和伶氏 「大変だったのは、多数ある庁内システムのIAP対応です。システム台帳を基に各所管へヒアリングを重ねましたが、それぞれのシステムごとに異なるネットワーク構成の全貌を洗い出し、現場の業務実態に合わせたテスト内容や日程を調整していくプロセスの難しさには本当に悩まされました。原因不明の接続トラブルが発生した際にはその切り分けを徹底し、システム改修が必要なケースも含めて、各所属や保守事業者との度重なる調整には多大な時間を要しました」(藤本氏) さらに藤本氏を悩ませたのが、メール移行に伴う運用整理と、既存システムからの通知メールへの対応でした。 「メール移行で混乱した一つが『グループメール』です。Google グループ特有の『BCC送信不可』といった仕様をどうカバーし、業務フローを代替するか。一から運用案を検討し、ガイドを全庁へ周知しました。 また、既存システムからのアラートメールを維持するため、クラウドエースさんに中継SMTPサーバーを構築してもらいましたが、多数のベンダーに対し、IP変更だけでなくSPF/DKIM等のドメイン適正化まで依頼して回る必要がありました。不備による送信エラーの切り分けにも追われ、旧サーバーの停止を何度も延期せざるを得ないほど、調整は一筋縄ではいかないものでした。ネットワークの移行作業と重なった時期でもあり、非常にプレッシャーを感じる日々でした」(藤本氏) メールだけでなく、長年親しまれてきた既存のグループウェアからの脱却も、大きな障壁として立ちはだかりました。徳島県庁 情報政策課 係長の阿利政徳氏は、現場の戸惑いをこう語ります。 徳島県庁 情報政策課 係長 / 阿利 政徳氏 「旧グループウェアには、全庁周知用の電子掲示板(BBS)や文書ライブラリ、さらには細かく作り込まれた電子職員録など、県庁の業務に最適化された機能が数多く存在していました。Google Workspaceには、これらと『同じ機能』は用意されていません。当たり前に使ってきた機能がなくなることへの不安は大きく、現場からは戸惑いの声もありました」(阿利氏) 既存の使い勝手をどこまで維持し、新しいツールの強みをどう活かすか。阿利氏らは、同じものを無理に作るのではなく、「新しい環境で違和感なく、かつ負担を減らして使える仕組み」を模索しました。そこで導き出したのが、Google ドライブ、Google スプレッドシート、そしてGoogle Apps Script(GAS)を組み合わせた独自の移行案です。 「旧システムの仕様をそのまま踏襲できなかった部分もありますが、移行の過程で複雑化していたルールを見直し、結果的に業務の簡素化に繋がった点は大きな収穫でした。また、新しい掲示板は、Google ドキュメントをそのまま活用するため、修正内容がリアルタイムに更新されます。こうした『新しくできるようになったこと』が、現場の業務スピードを劇的に変えたと思います」(阿利氏) 現場での徹底した検証と、発注者・受注者という垣根を超えた率直なコミュニケーション。この両輪があったからこそ、5,000人規模の業務を止めることなく、安全かつ実用的なゼロトラスト環境への移行が実現したのです。 3|「Geminiがない環境には戻れない」セキュアな基盤が引き出した現場の底力 2025年10月の運用開始から約半年。徳島県庁の業務環境において、まず大きな変化として現れたのが、リモートアクセスの利便性向上でした。 従来のVPN接続や画面転送方式では、事前設定や接続時の煩雑さ、スマートフォンでの操作性の低さが長年の課題となっていました。しかし、IAPとCAA(Context-Aware Access)を組み合わせた認証・認可の仕組みと、専用のスマートフォンアプリを導入したことで、これらは大きく改善されました。 現在はブラウザ一つで、庁内と同じ感覚でセキュアに業務システムへアクセスできるだけでなく、スマートフォンからもアプリを通じて直感的かつスムーズに業務システムを利用できる環境が実現されています。 こうした強固なセキュリティ基盤が整ったことは、付随するデジタルツールの活用を後押しする結果となりました。なかでも Googleが提供する生成AI「Gemini」の浸透は目覚ましく、アクティブユーザーが全職員の75%を超えるという、5,000人規模の自治体においては極めて稀有な活用状況が確認されています。 濵氏は、現場から届く確かな手応えを次のように振り返ります。 「多くの職員から『便利になった』という声が届いています。特にGeminiについては、今では『これがない環境にはもう戻れない』という意見が聞こえてくるほどです。単にシステムを新しくしただけでなく、職員一人ひとりの生産性やマインドセットにまでポジティブな影響を与えられていると感じています」(濵氏) また、生成AI以外ではGoogle ドキュメントやスプレッドシートによる共同編集も広がりつつあるとのことです。これにより、各部門の担当者が個別に管理していたファイルを人力で統合していた作業も、現在は大幅に効率化が進んだと伺っています。 強固なセキュリティに守られた安全な環境だからこそ、職員は煩雑な手続きや障壁に煩わされることなく、クラウドの恩恵を最大限に享受し、自律的に業務改善を進めることができます。 4|テクノロジーを、より身近でクリエイティブなものへ。徳島県庁が切り拓く地方行政の新しい形 徳島県庁が進めた今回の基盤刷新は、単なる最新ツールの導入ではありませんでした。それは、地方自治体という高いセキュリティが求められる環境において、いかにして「業務を複雑にせず、誰もが直感的に動ける自由な環境」を提供できるかという、本質的な挑戦でした。 濵氏は、このセキュアな基盤を土台とした今後の展望について、次のように語ります。 「今回のプロジェクトは、単なるグループウェアやメール環境の入れ替えではありません。従来の境界型防御からゼロトラストへの『セキュリティモデルの転換』と、『庁内コミュニケーションプラットフォームの刷新』です。 しかし、どれほど先進的なツールや安全な環境を導入したからといって、自動的に働き方が変わるわけではありません。この新しい基盤は、私たち職員自身がこれまでの業務のあり方やコミュニケーションの形を見つめ直し、自らアップデートしていくための『契機』です。このセキュアで自由な環境を最大限に活かし、組織全体の意識とカルチャーの変革につなげていきたいと考えています」(濵氏) 最新のテクノロジーが特別な存在ではなく、職員一人ひとりの日常的な業務のなかに自然に溶け込んでいる。ゼロトラストという新たな礎の上に、職員の知恵が融合していく徳島県庁の挑戦は、これからも地方行政の未来を照らす先行事例として、さらなる進化を続けていくはずです。 クラウドエースはこれからも、Google Cloudのポテンシャルを現場の価値へと変える伴走者として、徳島県庁の次なるステージを支え続けていきます。 利用したサービス Chrome Enterprise Premium導入支援 Chrome Enterprise Premium導入でGoogle Workspaceと連携しながらゼロトラストセキュリティを実現。クラウドエースが豊富な実績と専門知識でご支援いたします。 LGWAN接続系システム 段階的クラウド移行サービス LGWAN接続系システムの段階的なクラウド移行で、業務効率化、災害対応力、行政サービスにおける質の向上を支援。自治体のクラウド化・DX推進という重要課題に、最適なプランを提案します。 この記事を共有する