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Med-PaLM とは. Google Cloud の医療機関向け生成 AI モデルを解説
こんにちは、クラウドエース編集部です。
言葉を理解して文章生成や翻訳、要約、質問応答などを行う「大規模言語モデル(LLM)」のビジネスでの活用が広がっています。あらゆる疑問に対する回答を迅速かつ的確に提供してくれるこの技術は、医療分野での活用に向けての研究も進められています。
この記事では、Google Cloud が開発している医療機関向けの大規模言語モデル「Med-PaLM」の機能や今後の展望について紹介します。
目次
Med-PaLM とは
Med-PaLM は、Google が医学的な質問に高品質な回答を提供するために設計した大規模言語モデル(LLM)です。医学論文から学習した大量のデータセットでトレーニングされ、2022 年末に最初のバージョンが開発されました。2023 年 3 月には Med-PaLM のアップデート版で、より高い精度で回答を生成する「Med-PaLM 2」が発表されています。
Med-PaLM および Med-PaLM 2 の機能や具体的な能力について見てみましょう。
具体的な機能
Med-PaLM は、まるで人間の医師が回答しているかのように、一般的な健康に関する質問に対する正確な長文の回答を生成できる生成 AI システムです。以下のように自然言語で医療に関する質問を投げかけると、正確な回答を瞬時に出力してくれます。具体例について、人間の臨床医による回答と Med-PaLM の回答を比較しながら見てみましょう。
質問:CT スキャンで憩室炎や憩室症を検出できますか?
人間の臨床医による回答:
憩室炎は大腸の内壁にある小さな突起で、加齢とともによく見られます。憩室症は、外套が症状を引き起こさない場合のこの状態を指す医学用語です。憩室が炎症または感染を起こした場合、それは憩室炎と呼ばれます。便秘、下痢、発熱、胃の不快感などの症状が現れることがあります。憩室炎と憩室症の区別は、CT スキャンを使用して行うことができます。
Med-PaLM 2 による回答:
CT スキャンは憩室炎の診断によく使用され、憩室症も検出できます。 CT スキャンでは、体内の詳細な画像が得られ、憩室 (腸の内層に形成される可能性のある小さな袋) の存在が示される場合があります。憩室炎では、これらの袋が炎症を起こして感染する可能性があり、CT スキャンによって炎症と感染の程度がわかります。 CT スキャンは、虫垂炎や腸閉塞など、症状の他の考えられる原因を除外するためにも使用できます。腹痛、発熱、排便習慣の変化などの症状がある場合、医師は原因を診断するために CT スキャンの実施を指示する場合があります。
参照:https://sites.research.google/med-palm/
臨床医による回答と Med-PaLM 2 の回答を見比べても遜色ないほど、非常に詳細で正確な情報を生成してくれることがわかりますね。
実際に、上記の Med-PaLM 2 の回答に対して人間の医師は、「臨床的かつ科学的なコンセンサスがあること」「有害となるリスクが低いこと」「正しい推論であること」「正しく読解されていること」「正しい知識が用いられていること」「質問に関連した内容であること」「統計的な偏りがないこと」という評価項目を全てクリアしていると評価しています。
テストの成果
Google は、 Med-PaLM を含む医療向け生成 AI システムがどれだけ正確な回答を出力するのかということについて、米国医師免許試験(USMLE)形式の「MultiMedQA」というテストをベンチマークにして評価しています。約 60% の正答率で合格とされるこのテストで、Med-PaLM は 67.4% の正答率という結果を出し、合格基準を超えた最初の AI システムとなりました。新たなバージョンの Med-PaLM 2 ではさらに精度が上がり、正答率は 86.5% を達成しています。
ここでは実際に、Med-PaLM の能力を評価するのに用いられた、USMLE 形式のテストの例を見てみましょう。
質問:32 歳の女性が、2 週間続く倦怠感、乳房の圧痛、排尿回数の増加、断続的な吐き気を訴えています。彼女の最後の月経は 7 週間前でした。彼女にはカルバマゼピンで治療された発作障害の病歴があります。身体検査で異常はありません。尿妊娠検査薬では陽性判定が出ています。子供が発症するリスクが最も高いのは次の合併症のうちどれですか?
回答:A.腎異形成
B.髄膜瘤
C.感音性難聴
D.腎異形成
4 択形式のテストではありますが、この質問に正答するためには、症状を正確に理解し、患者の検査結果からの所見を評価し、診断の可能性について複雑な推論を行い、最終的にどの疾患、検査、治療が最適かを選択する必要があります。つまり、医学的な理解と正しい知識の想起、そして論理的思考能力と推論のすべてが必須ということです。人間の医師がこのような質問に正確な回答を出すには、数年にわたる臨床トレーニングが必要と言われています。
なお、Med-PaLM から Med-PaLM 2 のアップデートでは、質問に対する長文回答の精度も大幅に改善されています。具体的に、長文での回答については、「医学的コンセンサスがある」「読解力がある」「適切な知識を用いている」「論理的である」という品質に対する 4 つの軸と、「無関係な情報がある」「詳細情報が省略されている」「統計上の偏りが考慮されていない」「回答が疾患を深刻化させるリスクがある」「回答が悪影響を及ぼす可能性がある」というリスクに対する 5 つの軸で評価されています。複数の国の異なるバックグラウンドを持つ医師によるレビューでは、これらの 9 つの軸のうち 8 つで「人間の医師の回答よりも、Med-PaLM 2 の回答の方が優れている」と評価されています。
Med-PaLM の今後
Med-PaLM および Med-PaLM 2 は、現在はまだ一般提供されていません。複数の試験で高い能力を証明していますが、これらのモデルが医療機関で患者に対して安全に使用されるためには、よりさまざまな臨床設定での厳格な品質評価が行われ、リスクを軽減し、倫理的な課題をなくす必要があると考えられているためです。
例えば、疾患の診断や治療に大規模言語モデルを使用する際の潜在的なリスクは、疾患や薬物に関する情報を得るために使用する場合よりもはるかに大きいでしょう。実際の患者の診断に大規模言語モデルを使用するためには、回答に統計上のバイアスが出ないようにしたり、セキュリティの脆弱性をなくしたりする必要があり、そのためにはさらなる研究が必要なのです。
一般提供時期は未定となっているものの、Google は今後数か月で Med-PaLM 2 を一部の限られたユーザーに対してテストとして提供する予定としています。そして、ユーザーからのフィードバックを得ながら、一般提供を目指して安全で責任ある提供方法を探求していくとのことです。
また、Google は次なるステップとして Med-PaLM 2 を言語以外の領域に拡張する意向も示しています。具体的には、X 線や皮膚、網膜、放射線(3D および 2D)、病理、健康記録、遺伝子情報などのデータを、画像や電子健康記録、センサー、ウェアラブルデータなどから収集し、これらの情報を組み合わせ、より広く活用できる次世代の医療 AI システムの基盤を構築していくと展望を明かしています。
Google Cloud が提供する医療向け生成 AI サービス
Google は、Med-PaLM 以外にも AI を活用した医療向けプロダクトを開発しています。最後に、Google Cloud が提供する医療向けサービスについて紹介します。
Claims Acceleration Suite
Claims Acceleration Suite は、医療保険の事前承認と請求処理のプロセスを効率化するために開発されたサービスです。具体的には、請求書や領収書、身分証明書、診断書などの非構造化データを構造化データに変換できるプロダクトです。
これを利用することで、医療従事者は手動でデータ入力をしていた時間を削減できます。また、保険会社や行政は迅速に正しい情報を得ることができるようになります。結果として、医療保険と医療機関の双方の業務効率化と、管理負担およびコストの削減に役立てることができます。特に医療従事者は、煩雑な事務処理から解放されることで、患者のケアという重要な業務に集中できるようになるでしょう。
Medical Imaging Suite
Medical Imaging Suite は、医療画像の処理をサポートする AI サービスです。
具体的には、X 線や MRI 医療データなどの医療画像の取り込み、保存、ラベル付けなどを行うことができます。これにより、医療機関は画像データを効率的に検索したり、素早く分析したりできるようになります。また、医療画像に対する注釈付けを自動化したり、研究用の機械学習モデルを構築したりすることも可能です。
医療用画像システムや手術製品の開発、製造を行う Hologic Inc は、子宮頸がんをスクリーニングするためのデジタル細胞診プラットフォームを開発しました。同社はこのプラットフォームと Medical Imaging Suite を組み合わせることで、医者の診断の意思決定スピードや研究所のパフォーマンスを大きく向上させています。
まとめ
ここまで、Google Cloud の医療用生成 AI サービス「Med-PaLM」について紹介してきました。Med-PaLM および Med-PaLM 2 は、今後さらなる研究・テストを重ねることで安全に一般提供されることが期待されています。これが実現すれば、医療業界に大きな革命を起こすと考えられるでしょう。
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※ Google, Google Cloud は Google LLC の商標です。
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