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量子コンピュータとは  仕組みやその利点について5分で入門

こんにちは。クラウドエース編集部です。

ITや科学に関するメディアを見ていると、「量子コンピュータ」という言葉を目にすることが増えたと感じるかもしれません。高速計算で世界を変える可能性があると注目を集めているものの、イマイチその仕組みやメリットについて理解しにくいと感じる人もいますよね。

今回は、量子コンピュータとは一体何なのか、どんな理論で、どう機能するのか、そして実用化されるとどのような未来が待っているのかという部分まで、わかりやすく解説していきます。

量子コンピュータとは?


量子コンピュータとは、一言でいうと「量子の特性を用いて、圧倒的な高速処理を実現するコンピュータ」です。

量子コンピュータの仕組みをもう少し詳しく理解するために、まずは「量子とは何か」について簡単におさらいしましょう。

量子とは、私たちの体や身の回りの物を構成する、エネルギーの粒のようなものです。この量子には、「状態の重ね合わせ」という性質があります。「重ね合わせ」とは、2つ以上の状態を同時にとるということです。
わかりやすく言うと、100円玉には「表」と「裏」という状態がありますね。これを机の上で回転させることを想像してください。コインの「表」か「裏」かの状態は、倒れるまで測定できません。このような、「どちらでもある」状態を「重ね合わせ」と呼びます。

量子コンピュータは、この「重ね合わせ」の理論を利用することで、高速な計算を可能としています。
例えば、4桁の任意の暗証番号を設定したとします。この数字を現在のコンピュータで導き出す場合、0000、0001と順にひとつずつ試していくしか方法はありません。しかし、量子コンピュータを用いると、何通りもの計算を同時に「重ね合わせる」ことが可能なため、一瞬で正答を導き出せるのです。

通常のコンピューターとの仕組みの違い

量子力学の特性を使う量子コンピュータに対して、私たちが現在使っているコンピュータは古典物理学に基づくため、「古典コンピュータ」とも呼ばれます。古典コンピュータと量子コンピュータの大きな違いは、情報を処理する仕組みです。

古典コンピュータでは数字や文字、音、画像などのデータは全て、「0」と「1」の組み合わせに変換して処理されています。この0と1で表す情報処理の単位は「ビット」と呼ばれます。例えば数字の「2」は「10」の2ビット、Aという文字は「0100 0001」の8ビットで表されます。そして、0と1のビットで表現される情報を、電気回路上のスイッチのONとOFFに対応させることで処理が実行されます。このような電気回路上のスイッチは「論理ゲート」と呼ばれます。

このように、「0」か「1」かで情報を処理する古典コンピュータに対して、量子コンピュータでは「0」と「1」を重ね合わせた「0+1」という状態での処理が可能です。このような「0+1」という情報単位は「量子ビット」と呼ばれ、この計算を可能にする電子回路は「量子ゲート」、量子ゲートを用いる量子コンピュータは「量子ゲート方式」と呼ばれます。

4桁の暗証番号を解く際、従来の古典コンピュータでは、10の4乗分の計算が必要です。一方、量子コンピュータでは、重ね合わせの性質を利用し、各ビットに「0+1」の2通りを同時に持たせることが可能です。これにより、10,000通りすべての状態を同時に扱うことで、瞬時に正解を導き出せるのです。

スーパーコンピュータとの違い

「瞬時に複雑な計算ができる」と聞くと「スーパーコンピュータとは何が違うの?」と疑問に思う人もいるでしょう。

例えばスーパーコンピュータ「富岳」は計算速度に関する世界ランキングで3期連続で首位獲得が発表されるなど、高速計算ができることで有名です。しかし、スーパーコンピュータと量子コンピュータは処理の仕組みが大きく異なります。

スーパーコンピュータは一般的なコンピュータと同様に、中央演算処理装置である「CPU」と画像処理半導体である「GPU」を利用して計算を行います。 CPUとGPUを多数繋げることで、高速な処理を実現しているのです。 

それに対して、量子コンピュータは先述の通り、量子力学を用いた全く異なるアプローチで計算を行います。

ちなみに、 Google は2019年に科学誌の「Nature」における論文で、量子コンピュータの性能がスーパーコンピュータを凌駕する「量子超越性」の達成に成功したと発表しています。

量子コンピュータの実用化で実現できること

現在、量子コンピューターは開発途上の段階で、まだビジネス現場などでの実用はされていません。しかし、その活用方法は多くの研究機関や企業で模索されています。 

ここでは、将来的に量子コンピュータが実用化された場合に期待できることについて紹介していきます。

交通経路の最適化


1つ目は、交通経路の最適化です。これは、量子コンピュータの「瞬時に複雑かつ膨大な計算が可能」という特徴を生かしてできることです。

「巡回セールスマン問題」と呼ばれる最適化問題があります。これは、一人のセールスマンが複数の場所を訪問する際に、どの道順で行けば最も効率的かという問題です。先述の通り、古典コンピュータでその最適解を探す場合、全てのパターンでかかる時間を1つずつ計算しなければなりません。しかし、量子コンピュータを利用すれば瞬時に最適な道順を導き出せます。

これはもちろん、セールスの訪問順を決めることだけでなく、幅広い物流業にも応用できます。また、車の自動運転への応用も期待されています。出発地の異なる大量の車が、それぞれ最適な道のりで異なる目的地に辿り着くためには、瞬時に最適解を出せる量子コンピュータの利用が欠かせません。量子コンピュータであれば、道路の工事や事故などが起きた場合も、瞬時にベストな道を導くことができます。

薬品開発の高速化


2つ目は、薬品開発の高速化です。これは、量子コンピュータが「原子や分子を扱う」ことを生かして実現できることです。

一般的に新薬を開発する際は、分子と分子を組み合わせた相互作用のシミュレーションを行い、その効果を予測していきます。分子の振る舞いは無限の可能性を持ち、なおかつ新薬開発では多数の原子や分子を扱います。メモリが有限な古典コンピュータでは、シミュレーションの高速化や正確さの追求にも限界がありましたが、量子コンピュータを活用することで、より的確で素早いシミュレーションが叶う可能性があるのです。

AI技術の発展促進


3つ目は、AI技術の発展促進です。これは、量子コンピュータの「最適化問題を即時に解ける」「大量のデータを瞬時に分類できる」「さまざまな状況をシミュレーションできる」という特徴を生かして実現されます。

具体的には、AIに量子コンピューティングを用いることで、より素早く最適な対応が叶うと期待されています。例えば、ディープラーニングに量子コンピュータが導入されれば、判断の的確性を向上させつつ、AIが正しい判断ができるようになるまでの時間も短縮できるでしょう。このようにAIが高度化すると、その場その場に対応できるロボットの開発も可能となり、人間が行っていたさまざまなサービスがAIに置き換わることが予想されています。

需要や未来の予測


4つ目は、需要や未来の予測です。これは、量子コンピュータが「複雑な計算を瞬時に行う」という特性を生かして実現されます。

具体的には、金融のリスクや不確実性のシミュレーションに役立つと考えられています。現在、金融業界ではアナリストは、あらゆる仮定を織り込んだ計算式を活用して市場を予測しています。しかし、量子コンピュータを用いれば、より大量のデータを瞬時に解析したり、あらゆる可能性を比較検討したりすることで、予測の精度を向上させられるでしょう。また、ポートフォリオのリスク最適化への利用も期待できます。

実際に、イギリスの銀行ナットウエスト・グループの研究活動では、量子アルゴリズムを用いることで、不良債権の処理にかかる費用の計算を、数週間から数秒までに短縮したと発表しています。

量子コンピュータの現状と課題

このように、さまざまな業界で活用が期待される量子コンピュータですが、まだ技術が追いついていない部分も多く、課題も残されています。

技術的な課題としては、量子エラーの存在が挙げられます。これは現状の量子コンピュータのハードウェアがまだ不完全なものであるため生じる誤りで、エラーが起きると計算結果が正確なものではなくなってしまいます。エラーを前提とした計算手法の開発も進んでいますが、完全なものになるにはまだ時間がかかるでしょう。

また、量子コンピュータの「複雑な計算を瞬時に解く」という利点は、リスクにもなり得ます。具体的には、仮想通貨や金融分野を中心に広く使われている暗号が容易に解読される可能性が指摘されています。このような暗号は古典コンピュータでは解読が難しい素因数分解を応用して作られていますが、量子コンピュータでは瞬時に解読できるかもしれません。現在、その対策として量子コンピュータでも解読が難しい暗号も開発されつつあります。

なお、今後、量子コンピュータの開発が進んでも、古典コンピュータが淘汰されることはないと考えられています。その理由は、量子コンピュータを用いるべき複雑で大量な問題は限られており、その用途も限定的だからです。また、量子コンピュータを制御するためには、多くの電子機器や測定機器などが必要で、これらは古典コンピュータにより実行されます。

このようなことから、量子コンピュータは現在の古典コンピュータに取って代わるような存在ではなく、あくまで用途に合わせて共存されると予想されているのです。

まとめ

ここまで、量子コンピュータの概要や実現できること、課題などについて紹介してきました。まだ技術的に未解決の部分も多い量子コンピュータですが、その計算能力は圧倒的です。この先、実用化が実現されれば、私たちの未来を大きく変えるかもしれません。

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